トランプ氏の「数字」戦略:なぜ不正確なデータを多用するのか?

ドナルド・トランプ前米大統領は、演説や公の場で具体的でありながらも、現実離れした「数字」を頻繁に用いることで知られています。最近の共和党議員向けレセプションでは、薬価を「1500%」引き下げると公約しましたが、価格が100%を超えて下落することは物理的に不可能です。また、ガソリン価格が一部の州で1ガロンあたり1.99ドルにまで下落したと主張しましたが、全米自動車協会(AAA)のデータでは、全米すべての州で3ドル以上であることが示されています。

繰り返される「不都合な真実」:具体的な事例

トランプ氏の主張には、他にも根拠のない数字が散見されます。例えば、過去4ヶ月で企業が米国に16兆ドルもの投資を行ったと豪語しましたが、2024年の米国経済全体の価値は30兆ドルにも満たないため、この数字は現実的ではありません。さらに、ダグラス・A・コリンズ退役軍人長官の支持率が92%に達したと祝辞を述べましたが、分断が進む現在の米国でこれほど高い支持率を誇る政治家は皆無に等しく、ホワイトハウスはこの主張の出典を一切示していません。

ドナルド・トランプ前米大統領が演説中に指を差す様子。彼の発言に不正確な数字が多用される問題が指摘されている。ドナルド・トランプ前米大統領が演説中に指を差す様子。彼の発言に不正確な数字が多用される問題が指摘されている。

大規模な予算法案が成立する数週間前には、もし法案が成立しなければ「68%の増税になる」と警告し、この数字をその後の演説でも繰り返しました。しかし、金融専門家らは法案が否決された場合でも約7.5%の増税を予測しており、68%という数字がどこから来たのかは不明瞭です。

数字は「修辞」の道具:専門家の見解

精査すれば根拠のない数字を多用する政治家はトランプ氏が初めてではありませんが、彼が自身の主張に権威と信憑性を与えるために具体的な数字を添える頻度は際立っています。そして、その数字の多くは結局のところ不正確であることが指摘されています。カンザス大学のコミュニケーション学教授であるロバート・C・ローランド氏は、トランプ氏のレトリックを分析し、「彼は統計を、『最も質の高いデータによるとこうだ』という事実の表明としてではなく、むしろ自分の考えを売り込むための修辞として使っている。単に自分が言っていることをより良く見せるための手段なのだろう」と述べています。

トランプ氏自身は、研究や専門知識を軽視する姿勢を隠そうとしませんが、政敵の失敗を強調したり、自身の偉業や公約の壮大さを誇張する際には、しばしば数字や統計、それも誇張されたものに頼る傾向があります。これに対し、ホワイトハウスは、数字の正確性に関する疑問はトランプ氏の幅広い功績に比べれば重要ではなく、「フェイクニュースによる無意味な批判」であると声明で反論しています。

結論

ドナルド・トランプ前米大統領が発言の説得力を高めるために、具体的ながらも不正確な数字を多用する傾向は、彼の修辞戦略の重要な一部であると考えられます。これらの数字は、事実を伝えるためというよりも、支持層を動員し、自身の物語を強化するための「道具」として機能しているのが現状です。政治における数字の扱いは、その信頼性と、情報を受け取る側の正確な理解に深く関わるため、その動向は今後も注視されるべきでしょう。