トランプ氏、労働統計局長を解任:雇用統計操作を非難、関税政策で市場動揺

アメリカのドナルド・トランプ大統領は1日、米国の主要な経済統計を管轄する労働統計局(BLS)のエリカ・マッケンターファー局長を解任したと発表しました。この決定は、BLSが発表した雇用統計が市場予想を下回り、トランプ氏が推進する関税政策への懸念が高まる中で行われました。トランプ氏は、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」を通じて、マッケンターファー氏が政治的な理由で雇用統計を操作したと非難しましたが、その証拠は提示されていません。

この突然の解任は、ニューヨーク株式市場に大きな衝撃を与えました。トランプ氏が世界各国からの輸入品に対する大規模な関税引き上げ計画を推し進め、既に世界の株式市場に動揺を広げる中でのBLS局長解任は、ホワイトハウスが経済統計に不当に干渉しているのではないかという懸念をさらに強めています。

労働統計局長解任と経済データへの影響

トランプ氏による労働統計局長マッケンターファー氏の解任は、同氏が発表した雇用統計が自身の経済政策の評価を損なうものだと認識したことに起因します。大統領は、統計が「不正確」であるとし、自身のチームに「バイデン前政権の政治任用者」を即刻解任するよう指示したと述べています。

この動きに対し、経済調査会社「オックスフォード・エコノミクス」のアメリカ担当首席エコノミスト、ライアン・スウィート氏は、企業にとって質の高い経済データは不可欠であり、民間の情報源では代替できないと指摘し、解任に懸念を示しました。スウィート氏は、「データの信頼性が疑問視されるようになれば、多くの問題を引き起こすことになる」と述べ、非常に悪い方向への一歩であると批判しました。

トランプ氏、労働統計局長を解任:雇用統計操作を非難、関税政策で市場動揺

ワシントンで記者団に応じるドナルド・トランプ前米大統領。自身の経済政策や労働統計局長解任について語る様子。

雇用統計の修正と関税の影響

BLSが1日に発表した7月の米雇用統計では、就業者数の増加が前月比7万3000人増にとどまりました。さらに、5月と6月の就業者数も当初発表から25万人減と大幅に下方修正されたことが、トランプ氏がマッケンターファー氏を解任する根拠となりました。

しかし、BLSは毎月、最新のデータに基づいて雇用統計を修正しており、通常は数万人単位での増減は珍しくありません。今回の大幅な修正は通常よりも大きかったものの、複数のアナリストは、雇用の減速を示す他のデータと一致していると指摘しています。一部では、今回の修正には、中小企業が関税の影響を特に受けやすく、調査への反応が遅れることが多いため、関税の影響が反映された可能性もあるとの見方が出ています。前出のスウィート氏は、「修正はいつものこと。彼らは正確な数値を出そうとしている」と擁護しました。

専門家からの強い批判と経済の信頼性

マッケンターファー氏は2023年に労働統計局長に任命され、それ以前も20年以上にわたり政府職員として働いてきました。彼女の人事は米上院でほぼ全会一致で承認されており、その専門性と誠実さには定評がありました。

右派シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」の経済政策部門ディレクター、マイケル・ストレイン氏は、マッケンターファー氏は「非常に誠実に」職務を遂行してきたと擁護し、「政府統計には偏りがなく最高の品質のものだと、政策決定者たちが理解することが不可欠だ。その信頼性に疑問を投げかけることで、大統領はアメリカに損害を与えている」とソーシャルメディアに投稿しました。

シンクタンク「ピーターソン国際経済研究所」のシニアフェロー、ジェド・コルコ氏は、今回の解任は「きわめて深刻に懸念される」と指摘しました。コルコ氏は、政府が近年、歳出削減の中でインフレ関連データなど経済データの収集作業を縮小していることに言及し、今回の解任が米国の経済データおよび統計システム全体の信頼性を意図的に損なう、非常に危険な行為であると強調しました。

トランプ氏の関税政策と世界市場の動揺

今回のBLS局長解任とデータに関する対立は、トランプ氏が貿易政策を再構築し、世界各国からの輸入品に10%から50%の新たな関税を課す中で起きています。トランプ氏が4月に同様の計画を打ち出した際には、米株式市場は1週間で10%以上下落し、為替や債券市場にも懸念が広がりました。その後、一部の厳しい関税措置が一時停止されたことで市場は回復し、ここ数週間、米株価指数は過去最高水準で推移していました。

しかし、最新の関税措置は4月の提案ほど極端ではないものの、各国からの輸入品に対する平均関税率が、年初の2.5%未満から平均17%にまで引き上げられる見込みです。フリー・マーケッツETFのポートフォリオ・マネジャー、マイケル・ゲイド氏は、「市場がすぐに回復したことで、トランプ氏は自信を深めた。今度はもう一度、賭けに出るつもりだろう」とBBC番組で話しました。

米株式市場は1日朝から下落し、午後にかけて下げ幅が拡大しました。S&P500種は1.6%安、ダウ平均株価は1.2%安、ナスダック指数は2.2%安で取引を終えました。欧州では、フランスのCAC40指数が2.9%、ドイツのDAX指数が2.6%、イギリスのFTSE指数が0.7%それぞれ値を下げました。アジア市場でも、韓国の主要指数が3.8%下落したほか、香港のハンセン指数が1%安、日本の日経平均株価は0.6%下げました。

FRBへの批判と人事の動き

雇用統計の発表を受け、トランプ氏は中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長にも攻撃の矛先を向けました。トランプ氏はかねて、景気浮揚のための金利引き下げに対応するのが遅すぎると、パウエル氏を非難しています。

パウエル議長は、経済全体の金利に影響を与える政策金利を決定する連邦公開市場委員会(FOMC)を率いています。FOMCでは12人の委員が投票権を持っていますが、そのうちの一人、アドリアナ・クーグラー氏は1日、来年1月末の任期満了を前に辞任すると発表しました。これにより、トランプ氏は新委員を任命する機会を得ることとなり、自身の経済政策に有利な人事を行う可能性が出ています。

結論

トランプ氏による労働統計局長の解任と、その背景にある雇用統計への不信、そして新たな関税政策の推進は、世界の経済市場に広範な影響を与えています。この一連の動きは、政府による経済データへの干渉と、その信頼性への懸念を浮き彫りにしました。専門家はデータの客観性と独立性の重要性を強調し、今回の解任が経済システムの根幹を揺るがしかねない危険な行為であると警鐘を鳴らしています。世界の株式市場が動揺する中、今後のトランプ政権の経済政策と、それに対する国際社会の反応が注視されます。


Source: BBC News
Original Article Link: https://news.yahoo.co.jp/articles/30cefcd2b299080e33d5ee810c98216ae97ce3c7