埼玉県で発生した、釈放されたばかりの男による女子中学生への暴行事件は、社会に大きな衝撃を与えています。特に、オートロック付きマンションへの「共連れ」と呼ばれる手口での侵入は、多くの人々が日頃から抱く防犯への懸念を改めて浮き彫りにしました。本記事では、事件の概要を詳細に報告するとともに、防犯アドバイザーの視点から、このような卑劣な犯罪から身を守るための具体的な対策と心構えについて解説します。帰宅途中の安全確保、特にマンションにおける不審者対策は、現代社会において不可欠な知識です。
平野悠容疑者の再犯:事件の概要と衝撃
2023年10月21日、埼玉県警は住所不定の平野悠容疑者(23)を暴行容疑で逮捕しました。事件は前日の20日夕方、さいたま市内のマンション敷地内で発生。平野容疑者は帰宅途中の女子中学生に背後から近づき、「殺すよ」と脅しながら口を塞ぎ、首に手を巻き付けて引き倒すという残忍な行為に及びました。女子中学生は軽傷を負ったものの、抵抗したため平野容疑者は逃走。被害者の父親からの110番通報により事件が発覚し、翌日には逮捕に至りました。
逮捕後、平野容疑者は「女性が1人で歩いているのを見かけて、体を触りたくなった」と呆れた動機を供述したと報じられています。さらに衝撃的なのは、彼がこの犯行当日、別の事件での公判を終え、釈放されたばかりだったという事実です。前橋地裁太田支部で、性的姿態等撮影やストーカー規制法違反などの罪により、拘禁刑2年6ヵ月、執行猶予5年の有罪判決を受けていたにもかかわらず、その日のうちに再び犯罪に手を染めたのです。東武鉄道太田駅から電車でさいたま市内に移動する際、たまたま女子中学生を見つけ、数分間にわたり執拗に後をつけた後に犯行に及んだと見られています。この再犯は、犯罪者の更生と社会防衛の難しさという重い課題を突きつけています。
女子中学生を追跡し、マンションに侵入する平野悠容疑者の手口のイメージ。オートロックを共連れで突破した事例。
オートロックを突破する「共連れ」手口の脅威
平野容疑者が女子中学生のマンションに侵入する際に用いた手口は、「共連れ」と呼ばれるものです。これは、住民がオートロックのドアを開けた際に、その後に続いて不審者がマンション内に侵入する行為を指します。一見、安全に見えるオートロックも、この手口の前には無力となり得るため、その脅威は計り知れません。
「共連れ」による事件は、残念ながら決して珍しいものではありません。特に記憶に新しいのは、今年8月に兵庫県神戸市で発生した、24歳の女性が自宅マンションで刺殺された痛ましい事件です。この事件も、不審者が「共連れ」でマンション内に侵入し、被害者を襲ったものとされています。このような事例が示すように、「共連れ」は単なる住居侵入に留まらず、凶悪な犯罪へと発展する可能性を秘めており、マンション居住者にとっては看過できない脅威となっています。
防犯専門家が指南する「共連れ」対策と身を守る心構え
では、「共連れ」による犯罪被害を防ぐためには、私たちはどのように行動すべきなのでしょうか。防犯アドバイザーの松丸俊彦氏に、具体的な防犯対策と日頃からの心構えについて伺いました。
周囲への警戒:歩きスマホの危険性
松丸氏は、「まず、誰か自分についてきていないか、ということに気づくのが大切です」と強調します。現代において、特に危険なのが「歩きスマホ」です。スマートフォンに夢中になるあまり、周囲に注意が払えなくなり、不審者の接近に気づかないリスクが高まります。さらに、イヤホンで音楽を聴きながら歩きスマホをしていると、物音にも気づけず、危険度は一層増します。「移動中はスマホから目を離し、周囲の状況を常に確認する習慣をつけましょう」と松丸氏はアドバイスします。
マンションオートロックでの不審者対策
マンションのオートロックに入る際、もし不審者が一緒に侵入しようとしてきたら、どのように対処すれば良いのでしょうか。
- エレベーターに乗らない勇気: 「電話をかけるふりをしながら、エレベーターに乗らないでください」と松丸氏。不審者と2人きりになる状況を避けることが最優先です。
- 相手に声をかける: もしエレベーターで2人きりになってしまった場合、松丸氏は「相手を一度見た後、視界に置きながら、『こんばんは』『何階ですか』と声をかけると良いでしょう」と提案します。犯罪を企む人間は、顔を見られたり声をかけられたりすることを嫌がる傾向があるため、これにより相手がひるむ可能性があります。
自宅前での最終防衛:決してドアを開けずに
もし不審者が自宅前までついてきてしまい、部屋に誰もいない状況だったら、絶対に自宅の鍵を開けてはいけません。自宅に押し込まれる危険性があります。松丸氏は、「やはり電話をかけるふりをしながら、隣の家の前に移動したり、エレベーター方向に戻ってください」と強く勧めます。その場で不審者と向き合うのではなく、安全な場所へ移動し、助けを求める準備をすることが重要です。
身を守る防犯ツール:防犯ブザーの有効活用
備えとして非常に有効なのが、防犯ブザーです。松丸氏は、「パトカーのサイレンの音と同じくらいの大きさ(110デシベル)のものを、バッグの外ポケットの中などに入れておいて、危ないと感じたらためらわず鳴らしてください」と呼びかけます。防犯ブザーを持ち歩き、「何かあったら鳴らす」という意識を頭の片隅に持つだけでも、自然と防犯意識が高まり、いざという時の行動に繋がります。
緊急時の行動:110番通報と安全な場所の確認
万が一、神戸の事件のように殺人まで企むような不審者だった場合、防犯ブザーだけではひるまない可能性もあります。さらなる備えとして、松丸氏は次の点を挙げます。
- 避難場所の把握: 「普段から通勤、通学経路のどこにコンビニなど人が集まる場所があるかを把握しておいてください。」もし誰かにつけられていると感じたら、そのコンビニなどで時間を潰しましょう。
- 躊躇しない110番通報: それでもつけられてきた人物が外で待っていたら、その時はためらわず110番通報してください。警察の介入が最も確実な身の安全確保に繋がります。
結びに:日頃からの防犯意識で安全な社会を
今回の平野容疑者の事件は、釈放後の再犯という衝撃的な側面と、身近な「共連れ」という手口の危険性を同時に示しています。オートロックのあるマンションに住んでいるからと安心せず、日頃から周囲への警戒を怠らないこと、そして緊急時の行動をシミュレーションしておくことが、自身と大切な人の身を守る上で不可欠です。
松丸氏のアドバイスにもあるように、「危険を感じたらやるべきこと」を事前に決めておくことで、不審者との遭遇時に冷静に対応し、被害を未然に防ぐ、あるいは最小限に食い止める一助となるでしょう。私たち一人ひとりの防犯意識の向上が、より安全な社会を築く第一歩となります。
参考文献
- FRIDAYデジタル: 釈放されたその足で再犯「女性が1人で歩いているのを見かけて、体を触りたくなった」女子中学生に暴行を加えた男の呆れた動機





