奨学金代理返還制度、導入企業が急増:人材確保と早期離職防止の切り札に

3月に正式解禁された2025年卒業の大学生の就職活動は後半戦を迎えています。人手不足を背景にした学生優位の「売り手市場」が続く中、企業の福利厚生として注目度が高まっているのが、学生が借り入れた奨学金を企業が入社後に代理で返還する制度です。この制度を導入する企業は急速に増加しており、優秀な人材の確保や若手社員の早期離職防止における重要な決め手として期待されています。日本学生支援機構(JASSO)のデータによると、4年制大学生の奨学金平均借入額は約313万円に上り、就職後も長期にわたる返済が続くケースが少なくありません。

奨学金返済の現状と企業代理返還制度の仕組み

学生を支援する独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)によると、4年制の大学生が奨学金を借り入れている場合の平均借入額は、約313万円にも及んでいます。これは卒業後の若手社員にとって、長期にわたる経済的負担となることが多く、キャリア形成における大きな懸念材料の一つとなっています。

このような状況に対し、JASSOが2021年に導入したのが「企業等が代理返還する制度」です。この制度では、企業が若手社員の奨学金をJASSOに直接返還します。これにより、若手社員は返済負担から解放され、実質的な「賃上げ」として捉えることができます。一方、企業側にとっても大きなメリットがあります。返還費用の一部を経費として計上できるため、「課税優遇」を受けられるほか、就職活動において魅力的な福利厚生として学生に強くアピールできます。さらに、入社後は若手社員の定着率向上にも繋がり、早期離職の抑止に貢献すると期待されています。

導入企業が急増:人手不足業界の新たな一手

「奨学金代理返還制度」は年々その認知度を高めており、近年では学生側が企業説明会などで積極的に導入の有無を尋ねるケースも増えています。こうした背景もあり、導入企業数は飛躍的に増加。2024年10月時点では2587社だったものが、約8カ月後の2025年6月末には3721社へと急増しました。特に、慢性的な人手不足に悩む飲食業や建設業での導入が顕著です。

人材確保のため奨学金代理返還制度をアピールする企業が目立った千葉での就職イベントの様子人材確保のため奨学金代理返還制度をアピールする企業が目立った千葉での就職イベントの様子

具体例として、そば屋チェーンを展開するゆで太郎システム(東京都品川区)では、最大8年間で144万円を代理返還する制度を導入しています。現在社員2名が利用しており、今後入社予定の学生も利用する見込みです。同社の担当者は、この制度が「就職活動における会社選びの決め手となり、社員の会社への定着を促す」と、その利点を強調しています。また、土木・建築工事を手がける日本国土開発(東京都港区)も、8年間で最大96万円を代理返還する制度を設けています。導入から4年間で計52名の新入社員が利用しており、同社人事部は「教育支援の一環として導入したが、結果として離職防止にも繋がっている。制度利用者の離職率は、若手社員全体の離職率よりも低い」と、副次的な効果を認めています。

2026年以降の就活市場と今後の展望

総合人材サービス会社マイナビの調査によれば、2025年卒の6月末時点の内々定率は前年比1.1ポイント増の82.8%に達しており、引き続き「空前の売り手市場」の様相を呈しています。この傾向は2026年以降の就職活動でも継続するとみられており、各企業は他社との人材獲得競争に打ち勝つため、より一層、奨学金代理返還制度のような魅力的な福利厚生の導入を進めることが予想されます。

JASSOの担当者は、「特に人材を必要としている企業へと、この制度をさらに広げていきたい」と述べており、今後も企業と学生双方にとってメリットの大きいこの制度の普及が加速するでしょう。奨学金代理返還制度は、現代の日本における若手人材の確保と定着を促進するための、不可欠な戦略の一つとしてその存在感を高めています。


参考文献:

  • 帝国ニュース日刊版 2025年7月28日号掲載「TOPICS」(再編集)