2024年7月20日に行われた参議院選挙は、日本政治に大きな転換点をもたらしました。与党である自民党と公明党は大幅に議席を減らし、参議院での過半数を割り込むという、戦後政治史上初の衆参両院での少数与党状態となりました。この異例の事態は、国民の強い不満が選挙結果に如実に表れたものと言えるでしょう。
自民党敗北の背景:続く物価高と政治資金問題
自民党が歴史的な敗北を喫した背景には、複数の要因が絡み合っています。最も直接的な原因は、長引く物価上昇とそれによる国民生活の困窮です。多くの国民が生活苦を訴える中で、政府の経済対策への不満が高まっていました。
さらに、自民党の政治家が派閥のパーティー券収入を裏金として蓄積していた問題が明るみに出たことも、国民の強い批判を招きました。政治資金に関する制度改革が進まない中でのこの問題は、自民党政治の「腐敗」という印象を決定づけ、有権者の間に根深い不信感を植え付けました。国民の失策と腐敗に対する強い批判が、今回の選挙で明確に表明されたのです。
岸田文雄首相が参議院選挙の結果について記者会見で発言する様子。自民党の敗因と今後の日本政治の行方が焦点。
国民意識の変化:アベノミクスの光と影
内閣府が毎年実施している「社会意識に関する世論調査」を見ると、国民の世の中に対する認識が大きく変化していることがわかります。2013年2月には「満足」が「不満」を上回り、2010年代を通じて「満足」が6割、「不満」が4割という安定した傾向が見られました。これは、2012年12月の衆議院選挙で自民党が政権を奪還した時期と重なり、安倍晋三政権は日本史上最長の政権となりました。
しかし、この安定期が建設的な政策実現に十分に活用されたとは言えません。特に、後の世代に負の遺産を残したのが「アベノミクス」と称される経済政策です。大規模な金融緩和と日本銀行による事実上の国債引き受けを通じて円安が進められた結果、輸出企業の利益は膨らみ、株価は上昇しました。株主配当、役員報酬、内部留保は増加しましたが、富は労働者に適切に分配されず、賃金は停滞を続けました。貿易収支は赤字年が増え、新たな産業も生まれず、一般国民は株高を見て「国の経済はうまくいっている」と錯覚したに過ぎないという現実が浮き彫りになっています。
2020年代に入り、国民は現状に対する批判や疑問を持つようになりました。内閣府の調査によると、2023年11月には「満足」が50.3%、「不満」が48.8%と接近し、2024年9月には「満足」が53.4%、「不満」が44.7%となっています。年代別では、20代、30代、40代で不満が満足を55対45程度の割合で上回っており、若年層を中心に将来への希望を持てないという声も聞かれます。現役世代は、働いて得た給料から税金や社会保険料が引かれることに不満を募らせており、今回の参議院選挙では野党がこぞって減税を訴えましたが、石破茂首相は魅力的な生活支援策を打ち出せませんでした。
参政党の台頭:極右的イデオロギーとその影響
今回の参議院選挙の最大の勝者となったのは、2020年に設立された「参政党」でした。2022年の参院選で初の1議席を獲得し、2024年の衆院選で3議席を得た同党は、今回の参院選で一気に14議席を獲得し、比例代表の得票は700万票を超えて野党第二党に躍り出ました。
参政党のスローガンは「日本人ファースト」であり、選挙戦中には「外国人が社会福祉で優遇されている」といったデマを流し、排外主義を煽りました。候補者の中には核武装を主張する者もおり、同党が発表した憲法改正案は国民主権や基本的人権を否定する内容を含んでいます。この政党は、西欧における極右政党と同種の性質を持つと言えるでしょう。同党に投票した有権者の多くは、その新しいイメージや、自民党から離れて別の保守的な政党を求めた結果であり、必ずしも政策内容を深く理解し、賛同したわけではないと見られています。
しかし、参政党が排外主義や差別主義を是認する雰囲気を顕在化させたことは、日本政治に悪影響を与える可能性があります。外国人観光客の急増や外国の富裕層による日本国内の不動産買収は、円安の帰結であり、それは極右や保守層が今も評価する安倍政権の経済政策によるものです。つまり、これらの人々が外国人存在感の高まりを批判することは、論理的に矛盾を抱えています。しかし、そうした人々に論理や事実を説いても無力であるのが現状です。先入観や被害者意識を持つ人々が社会に一定数存在する中で、人権や民主主義といった基本原則を擁護することは、以前よりも難しくなっています。既存政党の政治家は、たとえ「古い」と言われようとも、民主政治の基本原理を粘り強く訴え続けていく必要があります。
まとめ
今回の参議院選挙は、物価高騰と政治腐敗に対する国民の不満、そして長年の経済政策のひずみが露呈した結果と言えます。特に、参政党のような極右的イデオロギーを持つ勢力の台頭は、日本政治の新たな課題を突きつけています。民主主義と人権という普遍的な価値を守り、国民の多様な声を政治に反映させていくためには、既存政党がその役割を再認識し、より建設的かつ誠実な政治を行うことが求められています。
参考文献
- 山口二郎. 「韓国語記事入力: 2025-08-03 19:23」. 『ハンギョレ』, https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1211319.html.
- 内閣府. 「社会意識に関する世論調査」.
- 注: この記事の元データは、韓国のハンギョレ新聞に掲載された山口二郎法政大学法学科教授による論説です。