2025年度最低賃金、全国平均1118円へ過去最大の引き上げ:物価高と春闘賃上げが背景

中央最低賃金審議会は2025年度の最低賃金(時給)について、全国加重平均で63円(6.0%)引き上げ、1118円とする目安を答申しました。これは昨年度の引き上げ額(50円、5.0%)を上回る、過去最大の上げ幅となります。この大幅な引き上げは、今春闘で実現した高水準の賃上げや、長期化する物価高騰が背景にあります。

過去最大の引き上げ幅、その背景と影響

今回の引き上げ目安は、労働者の生活安定と購買力維持に焦点を当てた重要な決定です。全国加重平均で時給1118円という新目安は、最低賃金で働く労働者にとって生活費の増加に対応するための大きな支えとなることが期待されます。引き上げの主な要因としては、まず2024年の春闘で多くの企業が大幅な賃上げを実施したことが挙げられます。大手企業を中心に賃金が上昇した流れが、最低賃金にも波及した形です。

さらに、食料品やエネルギー価格を中心に、高止まりする物価高も今回の引き上げを強く後押ししました。総務省の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)によると、昨年10月から今年6月までの平均値は前年同期比3.9%増となっており、特に食料品に限ると6.4%増と家計への負担が顕著に増加していることが示されています。審議会では、これらの経済状況を総合的に考慮し、特に生計費の重要性を重視する形で、過去最大の引き上げ額での決着に至りました。

最低賃金決定の仕組みと地域別目安

最低賃金は、企業が労働者に支払うべき賃金の下限を定めたもので、その目安は厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会で決定されます。この審議会は、労働者側、使用者側、そして有識者の代表で構成されており、賃金の動向、労働者の生計費、企業の支払い能力などを総合的に考慮し、議論を重ねます。

地域経済の状況に応じて、都道府県はA、B、Cの3つのランクに分類され、それぞれのランクに合わせた引き上げ額の目安が示されます。2025年度の目安では、Aランク(東京、大阪など6都府県)が63円、Bランク(北海道、福岡など28道府県)が63円、Cランク(岩手、沖縄など13県)が64円とされました。この目安が適用されれば、最も高い東京都の最低賃金は1163円から1226円に、最も低い秋田県でも951円から1015円となり、全国すべての都道府県で時給1000円を超えることになります。この目安を踏まえて、各都道府県の審議会で具体的な引き上げ幅が決定され、例年10月頃から発効される見込みです。近年、地方の審議会が中央の目安を大幅に上回る決定をするケースも見られるため、今後の審議の行方には引き続き注目が集まります。

東京都千代田区で最低賃金引き上げ目安について議論する中央最低賃金審議会の小委員会メンバー。日本の労働政策に関する重要な会議の様子を示す。東京都千代田区で最低賃金引き上げ目安について議論する中央最低賃金審議会の小委員会メンバー。日本の労働政策に関する重要な会議の様子を示す。

労使双方の主張と審議会の判断

今回の最低賃金引き上げに関する審議では、労働者側と使用者側からそれぞれ異なる主張が展開されました。労働者側は、長期化する物価高騰の影響を強く訴え、「最低賃金に近い時給で働く労働者の生活は昨年以上に苦しくなっている」と主張し、昨年を上回る大幅な引き上げを強く求めました。彼らは、実質賃金の低下が続く中で、最低賃金の大幅な引き上げが生活防衛に不可欠であると考えていました。

一方、使用者側は、賃上げの必要性自体は認めつつも、特に中小企業において原材料費などの価格転嫁が十分に進んでいない現状を指摘しました。「過度な引き上げは中小企業の経営を圧迫し、雇用維持にも影響を及しかねない」と慎重な姿勢を示し、経営体力の限界を訴えました。

中央最低賃金審議会の小委員会は、これらの主張を踏まえつつも、最終的には物価高による家計の負担増を重視する形で、生計費の観点から過去最大の引き上げ額を決定しました。これは、現在の経済状況下で労働者の生活を保護することに重点を置いた判断と言えるでしょう。

政府目標「全国平均1500円」への道のり

政府は、「2020年代に全国平均1500円」という最低賃金の目標を掲げています。今回の引き上げ額は過去最大であるものの、この目標を達成するためには、単純計算で毎年度7.3%の引き上げが必要とされており、今年度の6.0%という引き上げ率はこれを下回っています。

この目標達成には、今後も継続的な賃上げと、それを支える企業の生産性向上、価格転嫁の促進、そして公正な分配メカニズムの確立が不可欠となります。今回の引き上げは、政府目標への一歩ではありますが、道のりはまだ長く、今後の経済状況と政府、労使の動向が注目されます。


参考文献:

  • 中央最低賃金審議会 答申資料 (厚生労働省)
  • 総務省 労働力調査
  • 総務省 消費者物価指数 (CPI)