アニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを手掛け、長年にわたり歴史漫画で読者を魅了してきた安彦良和氏(77)が、自身のルーツである福島県桑折町の半田銀山を舞台にした新作漫画「半田銀山昔語り」を書き下ろしました。7日には桑折町民体育館でトークショーが開催され、安彦氏は「先祖は全く無名の一庶民だが、どこかで歴史の大きなキーストーンと関わっているかもしれないところにドラマを感じる」と、この歴史漫画の制作背景と深い思いを語りました。
半田銀山の歴史と安彦氏のルーツ
半田銀山は、16世紀末に上杉氏によって本格的な開発が始まり、18世紀には江戸幕府の直営となるなど、日本の歴史において重要な役割を担ってきました。明治時代に入ると実業家の五代友厚が再開発に着手し、新しい製錬技術を導入して近代化を推進。しかし、鉱石の枯渇により1950年に休坑し、1976年に閉山しました。
安彦氏の曽祖父である兵太郞さんは、この半田銀山で絵図面師として生計を立てていました。その後、一家は明治時代に北海道開拓へと向かい、祖父の代で名字の読み方を「あびこ」から「やすひこ」へと変更したといいます。安彦氏の家族史と半田銀山は、このように深く結びついています。
創作の経緯と「銀色の路」との関連性
安彦氏は、自身のルーツを探るため2023年4月に桑折町を訪問。さらに2024年11月には、五代友厚による半田銀山再興150年記念シンポジウムに登壇し、半田銀山を舞台にした新作短編漫画の構想を公にしました。今年3月からは、五代友厚を軸としたフィクション作品「銀色の路(みち)―半田銀山(やま)異聞―」を「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で隔週連載しており、半田銀山の歴史に新たな光を当てています。
福島県桑折町民体育館でのトークショーで新作漫画「半田銀山昔語り」について熱弁する安彦良和氏
「半田銀山昔語り」の詳細と創作意図
町制施行70周年記念事業の一環として、桑折町が制作を依頼した「半田銀山昔語り」は、「銀色の路」がエンターテインメント性を重視したフィクションであるのに対し、曽祖父・兵太郞さん一家が半田から北海道へ移り住むまでの足取りを追った歴史物語です。全84ページからなり、52ページの漫画のほか、安彦氏の兄がまとめた安彦家の資料や町の歴史資料などが盛り込まれています。価格は1冊2000円で、2000冊が発行されました。
トークショーでは、桑折町に隣接する伊達市出身の声優、佐々木るんさんが聞き役を務めました。安彦氏は、新作漫画に着手した理由について「ただ福島の鉱山とご先祖様のつながりというだけでは、こういうことにはならなかった。五代友厚という歴史上の人物が絡んできて、物語性を感じた」と説明。さらに「半田銀山昔語り」では、銀山に足を運んでいた五代と兵太郞さんの間に小さな接点があったという設定で創作したと明かしました。
アニメ監督としての新たな挑戦と展望
近年、安彦氏は2022年のアニメ映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」で監督を務めるなど、再びアニメ制作に回帰する傾向を見せています。トークショーの終盤では、「もう1本ぐらい長編作りてえ。元気が続けばもう1本ぐらい長編やると思う」と述べ、新たな長編アニメ作品への意欲を力強く表明しました。これは、長年のファンにとって朗報となるでしょう。
原画展と書籍販売情報
桑折町の多目的スタジオ「イコーゼ!」では、8日から15日にかけて「半田銀山昔語り」の原画展が開催され、会場で書籍も販売されます。入場は無料です。16日以降は、旧伊達郡役所と町教育委員会(町役場)の2カ所で書籍の販売が継続されます。詳細については、町教委教育文化課(024・582・2408)までお問い合わせください。
安彦良和氏の新作漫画「半田銀山昔語り」は、個人の歴史が壮大な歴史の流れと交差するドラマを描き出すとともに、アニメーション分野での今後の活動にも大きな期待を抱かせる一作です。