ロシアで、ウクライナ侵略に参加する兵士の帰還が進めば「国内の治安悪化は確実だ」と分析した論文が学術誌に掲載された。執筆者は露内務省傘下の研究機関の研究員。露当局者がウクライナ侵略の「負の側面」を指摘するのは異例だ。論文は、恩赦を条件に入隊した元受刑者が帰還して再犯を働くことや、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負った帰還兵による犯罪の増加を警告している。
【写真】モスクワ市内にある朝鮮料理店のメニュー表。インフレを受けて値段のシールが何度も張り替えられている
論文は「特別軍事作戦(ウクライナ侵略の露呼称)がロシアで犯罪に与える影響」と題され、露内務省ウラル法学研究所のマスロフ研究員が執筆した。
マスロフ氏が治安悪化の要因としてまず挙げるのは、露政権が一定期間の戦闘従事と引き換えに恩赦を約束し、凶悪犯を含む受刑者を戦線に送ったことだ。ロシアは兵力不足の解消を目的とし、数万~10万人規模の受刑者を軍に入隊させたとされる。
マスロフ氏は、恩赦を受けた元受刑者の数は不明だとしつつ、数千~数万人ではないかと推定。元受刑者、特に凶悪犯は順法意識が低く、社会と折り合うのも苦手だとし、「彼らが新たな犯罪に手を染めるのは時間の問題だ」と警鐘を鳴らした。
マスロフ氏はまた、元受刑者だけでなく一般の帰還兵にとっても、戦場で負ったPTSDが犯罪の引き金になると強調した。PTSDの人は一般に捨て鉢になったり、他者への攻撃性が増したりするとし、家族や知人への暴力犯罪の増加が予想されると述べている。
帰還兵のPTSDを巡っては、20世紀にもベトナム戦争後の米国やアフガニスタン侵攻後の旧ソ連で社会問題化した経緯がある。
マスロフ氏はさらに、露国民の平均月収が約7万5千ルーブル(約14万円)であるのに対し、露軍兵には5~6倍の報酬が支払われていると指摘。兵士は帰還後、低賃金で働く意欲を持てず、犯罪で安易に金銭を得ようとする恐れがあるとした。帰還兵が「平時には国家にそれほど必要とされないが、犯罪の世界では重宝される(銃の扱いなどの)軍事技術」を身に付けていることも懸念材料に挙げた。
こうした懸念は既に現実のものとなりつつある。