石破首相、日米関税合意の非文書化は「早期関税引き下げのため」と説明

石破茂首相は8月4日午前の衆院予算委員会集中審議において、日米間で合意された関税措置を文書化しない理由について、「文書を作ることによって、関税の引き下げが遅れることを一番恐れている」と明言しました。首相は「相手は普通の人ではない、ルールを変える人」と述べ、自動車関税の早期引き下げに向けた大統領令の発出を働きかける方針を改めて示しました。

自動車関税引き下げへの最優先事項

現在、日本から米国への輸出自動車にかかる15%の関税については、その引き下げ時期が明確になっておらず、日本の投融資・保証5500億ドル(80兆円超)に関しても両国間で解釈の相違が指摘されています。これに対し、立憲民主党などの野党は合意文書の作成を強く主張しています。しかし、石破首相は文書化が関税引き下げの遅延につながることを最大の懸念とし、特に「ルールを変える人」である相手方(トランプ大統領を指すとみられる)との交渉においては、迅速な大統領令の発出が不可欠であるとの認識を示しました。

石破首相、日米関税合意の非文書化は「早期関税引き下げのため」と説明

合意文書の法的性質と交渉戦略

米国との交渉を担当した赤沢亮正経済再生相も同日の審議で、合意文書を作成しないことへの理解を求めました。「ルールが大いに変わる激流の中で国益を守り抜こうとすれば、これまでと同じ対応はなかなかできない」と述べ、交渉を終えた他の国々も合意文書を作成していないこと、また米国が引き続き多くの国と交渉中であることを理由に挙げました。同相は「大統領令で出してもらえばそれで済む」との見解を示しつつ、文書化のメリットとして関税率の確定や国民への説明責任を挙げました。

赤沢再生相はさらに、今回の日米関税合意が「法的拘束力のある国際約束ではない」と指摘。「現時点では両者の意見が一致しているだけ」であり、「行政機関同士の合意」であると説明しました。この発言は、合意の法的地位に対する政府の認識を明確にするものです。

首脳間の意思疎通と政権の行方

国民民主党の玉木雄一郎代表が、自動車関税の早期引き下げに向けた首脳同士の意思疎通の必要性を指摘した際、石破首相は「必要であれば日米首脳会談を全く躊躇(ちゅうちょ)しない」と述べ、積極的に外交の場を活用する姿勢を示しました。しかし、日米合意後にトランプ大統領と電話で会談したかとの問いに対しては、「声明を米政府に出したが電話は行っていない」と回答しました。首相は今後の会談時期を含め、「いろいろな動きがあるが断定的なことは申し上げられない」と述べるに留めました。

7月の参議院選挙で議席の過半数を失い、与党内で退陣論が出ている首相の進退に関する質問に対しては、「日米合意をどう実行するか見ていかないといけない」と答弁し、現時点では政策の遂行に注力する意向を示しました。

まとめ

石破首相と赤沢経済再生相の国会での説明は、日米関税合意における日本政府の交渉戦略と、特に自動車関税の早期引き下げを最優先する姿勢を明確にしました。文書化を避けるという異例の対応は、「ルールを変える」相手との交渉において、形式よりも実利と迅速性を重視する判断であることを示唆しています。一方で、法的拘束力の欠如や国民への説明責任といった課題も浮き彫りになっており、今後の日米関係と国内政治の動向が注目されます。

参考文献

  • ロイター通信 (2025年8月4日). 石破首相、日米関税合意の非文書化は「早期関税引き下げのため」と説明.