「元気でさえいてくれれば……、それだけで良かった」――3人の女性が命を奪われた東京八王子市のスーパー「ナンペイ大和田店」で発生した強盗殺人事件から30年が経過した今も、この言葉は被害者遺族の深い悲しみを物語る。特に凶弾に倒れた矢吹恵さん(享年17)の母親がかつて追悼式で語った言葉は、事件の風化を許さない強いメッセージとして響き続けている。
恵さんが通っていた桜美林高校では、毎年命日の7月に当時の教員や同級生が集まり、追悼礼拝が行われている。賛美歌を歌い、黙祷を捧げ、故人の思い出を語り合うことで、事件を忘れさせないための努力が続けられている。保育士を夢見てピアノを習っていた恵さんの両親や親友らは、DNA鑑定など科学捜査技術の進歩に希望を託し、犯人逮捕の一報を待ち望んでいる。
未解決事件の捜査最前線と「ミッションインポッシブル」
「平成の三大未解決事件」の一つに数えられる「八王子スーパー強殺事件」、通称「ナンペイ事件」。この事件の捜査を指揮した元警視庁捜査一課理事官の原雄一氏(69)は、疑惑の男「モトムラ」を追う中で、カナダ在住の中国人K・Rの存在に辿り着いた。K・Rを日本へ連行するという前代未聞の「ミッションインポッシブル」は、原氏の粘り強い交渉によって実現する。しかし、この重大局面で原氏は異動となり、捜査の核心から外れてしまう。
K・Rの身柄引き渡しのため、八王子特捜本部の捜査員や通訳、警察庁職員が2013年11月にカナダへ渡航した。だが、同行した捜査員からは耳を疑う証言がある。「日本側は、K・Rを安全に日本に連れていき、旅券法違反の処理が終わったら安全に帰国させる内容に終始していた。八王子事件の解決など、毛頭考えていなかった」。捜査責任者である管理官が渡航を拒否し、この事件の捜査を他人事のように傍観していたという事実は、捜査態勢への疑問を投げかける。
旅券法違反で逮捕され、八王子署に護送されたK・Rに対する刑事の取り調べが開始されたものの、彼は「時間が経っていて、わからない」「何も知らない」「事件も八王子の地名も知らない。行ったことがない」と、予想通り全面否定を繰り返し、沈黙を貫いた。原氏のもとには、K・Rに関するその後の進展は一切報告されなかったという。
真相究明への終わらぬ闘い
スーパーナンペイ事件は、未だに真相が解明されず、遺族の深い悲しみと無念が続いている。捜査当局による国際的な協力と懸命な努力の一方で、捜査内部における連携や姿勢には課題が残ることも示唆された。この悲劇的な事件の全容解明と犯人逮捕が、被害者と遺族にとっての真の救済となるだろう。事件の風化を防ぎ、真実を追い求める社会の眼差しが、今もなお必要とされている。