「コメは足りている」と説明を繰り返してきた政府が一転、コメ不足を認め「増産」方針を打ち出したことで、現場からは困惑と懸念の声が上がっています。この突然の政策転換は、価格高騰に苦しむ消費者と、高齢化や荒廃農地を抱える生産者の双方に影響を与え、まさに「令和の米騒動」の局面を象徴しています。
政府の説明転換と業界の不信感
創業100年の老舗米穀店の店主は、店頭に十分な量のコメを並べられない現状を嘆き、「どうするの?というような状況」と語ります。店主は以前から「そもそもコメが無かったのではないか。去年の春くらいからおかしな感じではあった」と、政府の「コメは足りている」という説明に疑問を呈してきました。実際、普通に入荷するはずのコメが入ってこない状況が続いていたといいます。
こうした現場の訴えに対し、政府は昨日になってようやく見通しの誤りとコメ不足を認めました。石破総理は「生産量の不足があったことを真摯に受け止め」と述べ、これが米価高騰を招いた要因の一つであるとの認識を示しました。この状況を受け、政府は事実上の減反政策を転換し、増産へと政策の舵を切る決定を下しました。
「増産」への現場の課題と懸念
政府の増産方針に対し、鹿児島県でコメを生産する農家からは「(コメは)無いんだろうなと当初から思っていた。やっぱり無かったのかなと思った」と、生産現場の感覚が政府の認識と乖離していたことが示唆されています。しかし、その上で「急な増産は難しい」との困惑の声が上がっています。特に中山間地域では、荒廃した農地が増加しており、コメを作る農家の高齢化も深刻で、「作る人がいない状況」が現実問題として存在します。
増産が仮に進んだとしても、別の懸念も浮上しています。先述の米穀店の店主は「(増産を)やりすぎちゃうと、コメ余りになって、結局、今までやってきた減反政策の二の舞になってしまう」と指摘します。過去にコメ余りが社会問題となり、減反政策が導入された経緯があるため、性急な増産が将来的な過剰供給につながる可能性も危惧されています。
コメ不足を認め増産へ方針転換した政府への怒りの声と減反政策の現場の状況
農水省と農水族の協議:今後の政策の方向性
高まる懸念の声を受け、自民党の農水族は本日、小泉進次郎農水大臣を訪問し、増産の具体的な進め方について意見を交わしました。小泉大臣は面会後、「需要に応じた生産が基本である。これは間違いないこと」と述べ、需要と供給のバランスの重要性を強調しました。
また、大臣は「一律ですべての農家に増産を求めない」と明言し、農家が意欲を持って生産に取り組めるような環境整備を進める考えを示しました。これは、生産現場の多様な実情を考慮し、個々の農家の判断を尊重しながら、全体として食料安全保障に資する生産体制を構築しようとする姿勢と見られます。
局面打開への道のり
「令和の米騒動」が発生して約1年。政府の後手に回る対応が批判される中で、今回の政策転換が現場の課題を解決し、国民の食卓に安定的にコメを供給できる体制を構築できるのか、その真価が問われています。持続可能な農業政策と食料安定供給に向けた、政府の今後の具体的な行動に注目が集まっています。
参考文献:
- TBS NEWS DIG Powered by JNN. “コメ不足を認め、一転して「増産」の方針を打ち出した政府。急な転換に町のコメ店や農家からは現場の実情がわかっていないと憤りの声があがっています。” https://newsdig.tbs.co.jp/articles/gallery/2093649 (最終閲覧日: 2024年7月26日)
- Yahoo!ニュース. “突然「コメ不足」認めた政府に怒りの声 “減反→増産”の急転換に農家「高齢化で作る人いない」 課題山積”. https://news.yahoo.co.jp/articles/d4cf8898c0ef8866f42f2ee10f73437b0f485500 (最終閲覧日: 2024年7月26日)