現代のデジタル社会を支える「見えない心臓」とも言えるデータセンターは、Google検索からクラウドサービス、ChatGPTの応答に至るまで、あらゆる情報処理の根幹を担っています。しかし、これらの巨大施設が膨大な電力と同様に大量の水を消費し、その多くが再利用されない「静かな水の損失」として環境科学者の間で深刻な懸念を呼んでいます。2023年の未査読論文では、2027年までに世界のAIが年間消費する水の量が、イギリス全体の年間使用量の半分以上に達すると予測されており、この問題への早急な対応が求められています。
データセンター過熱の脅威と従来の冷却方法が抱える課題
データセンター内には何千台もの高性能サーバーが24時間体制で稼働しており、その過程で莫大な熱が発生します。この熱を適切に管理し冷却しなければ、機器のオーバーヒートや故障に直結し、大規模なサービス停止を引き起こすリスクがあります。実際、2022年にイギリスを襲った記録的な熱波の際には、ロンドンにあるGoogleとOracleのデータセンターが一時的にダウンする事態が発生しました。このようなトラブルを防ぐため、データセンターは冷却目的で大量の水を必要とし、例えば1メガワット級の施設では年間最大2550万リットルもの水が消費されます。
現在、データセンターの冷却に最も一般的に用いられているのは「チラー」と呼ばれる大型の冷蔵庫のような装置です。この冷却プロセスでは大量の水が蒸発して失われ、家庭用水のように下水処理を経て再利用されることはありません。つまり、データセンターで使用される水は実質的にその地域の水資源から永久に失われることになり、干ばつや水不足が発生しやすい地域では深刻な問題となっています。驚くべきことに、2022年以降に建設されたデータセンターの3分の2は、既に水資源が乏しい地域に集中しています。
データセンターの精密サーバーラック。湿気は機器故障の原因となるため、効率的な冷却と湿度管理が不可欠。
従来の代替策として「直接蒸発冷却」も存在しますが、この方式はデータセンターから排出される熱い空気を水を含んだパッドに通すことで、気化熱を利用して空気を冷却するものです。しかし、この方法は室内の湿度を上昇させるため、サーバーのような精密機器の損傷リスクがあり、追加の湿度管理設備が必要となるという課題を抱えています。
アルミ箔が拓く、省エネ・節水型の次世代冷却技術
このような状況の中、英ノーサンブリア大学の研究チームは、画期的な冷却技術を開発しました。この新技術は、湿った空気と乾燥した空気をキッチン用アルミホイルのような薄いアルミ箔で分離するというものです。乾燥した熱い空気を湿った空気の近くを通すことで、アルミ箔を介して熱だけを効率的に伝え、精密機器にとって有害な湿気を発生させることなくサーバールームを冷却します。
この革新的な冷却方法は、英ノーサンブリア大学のデータセンターで行われた実証試験で、従来のチラーと比較して優れたエネルギー効率と大幅な水消費量の削減が確認されました。特筆すべきは、この施設が太陽光発電のみで電力を賄い、コンプレッサーや化学的な冷媒を一切使用していない点です。
AI技術の利用が拡大の一途を辿る中、データセンターの需要とそれに伴う水消費量は今後も劇的に増加することが予測されます。デジタルインフラの持続可能な未来を築くためには、その設計、規制、そしてエネルギー供給のあり方を世界規模で見直すことが急務です。このアルミ箔を用いた冷却技術のような、環境負荷を低減しつつ性能を維持する新しいソリューションが、持続可能なAI時代の実現に向けた重要な一歩となるでしょう。
まとめ
AIの急速な発展はデジタル社会に計り知れない恩恵をもたらす一方で、その基盤を支えるデータセンターの熱管理とそれに伴う膨大な水消費が、新たな環境問題として浮上しています。特に、水資源が逼迫する地域でのデータセンター建設が増加している現状は深刻です。従来の冷却方法が持つ限界を克服するため、英ノーサンブリア大学の研究チームによって開発されたアルミ箔を用いた新しい冷却技術は、湿度問題を回避しつつエネルギー効率と節水効果を両立させ、持続可能なデータセンター運営への道を開きます。この革新的な技術の普及は、AI時代の持続可能な成長と、地球規模の水資源保護に大きく貢献する可能性を秘めています。
参考資料
- The Conversation Muhammad Wakil Shahzad, Associate Professor and Head of Subject, Mechanical and Construction Engineering, Northumbria University, Newcastle This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
- ムハンマド・ワキル・シャザド(英ノーサンブリア大学准教授)