2018年に発生した母親殺害事件は、その背景にある「教育虐待」の壮絶さから社会に衝撃を与えました。当時31歳の娘が、鉄パイプでの暴行や過剰な監視など、長年にわたる母親からの支配に耐えかねた末の犯行です。本記事では、一人の女性がなぜ悲劇的な結末に至ったのか、その詳細な経緯を深掘り。「看護師になったら病院を荒らす」といった母親の執着が、いかに娘の人生を蝕んでいったのかを明らかにします。
過酷な医学部受験強要と偽りの合格報告
「のぞみ」は翌年のセンター試験で惨憺たる結果に終わり、滋賀医科大学医学科への出願は足切りが明白でした。激怒した母親は携帯電話を没収し、鉄パイプで殴打。京都大学医学部保健学科(当時)の受験を強要し、翌年再び滋賀医科大学医学部を目指すよう命じました。京大も不合格だったにもかかわらず、母親は体面を保つため親族に「合格した」と嘘をつき、のぞみにも強要。高校時代、のぞみは母親の束縛から逃れるため3度家出しましたが、全て連れ戻され激しい虐待を受け、「囚人のような暮らしだった」と振り返っています。
奪われた進路の自由と監視下の生活
医学科への再受験という母親の意向に反し、のぞみは看護学科への進学を希望。独断で就職試験を受けましたが、未成年だったため母親へ連絡。母親はその場で採用を断り、のぞみに浪人生活を強制しました。以降、母親はのぞみに対し、常に監視できるリビングで勉強するよう命令。就寝時以外は一人きりの時間を与えないため、風呂も無理やり一緒に入らせるという徹底した監視体制を敷きました。のぞみ自身は医学科合格が不可能と理解しつつも、母親の強い希望で毎年滋賀医科大学医学部医学科を受験し続け、そのたびに不合格となりました。
教育虐待に苦しむ娘の心情を表すイメージ
絶望と9年間の苦悩、そして暴力の連鎖
度重なる不合格にも諦めない母親に、のぞみは精神的に追い詰められ、20代前半までに何度も自殺を試みました。しかし実行する勇気がなく、再び家出を決行。派遣会社に登録し自立を目指しましたが、母親が雇った探偵によって見つけ出され、再び連れ戻されてしまいます。結局、彼女の浪人生活は9年間にも及びました。成績は上がらず、医学科の受験は全て失敗に終わります。追い詰められた母親は「あんたなんか産まなきゃ良かった」とまで口にし、機嫌が悪いときはのぞみを殴る蹴るなどの暴行を繰り返しました。この壮絶な環境が、最終的に娘による母親殺害という悲劇的な結末へと繋がったのです。
本記事で詳述したように、医学部9浪の娘が母親を殺害した事件の背景には、過度な期待と学歴コンプレックスからくる母親の異常なまでの「教育虐待」がありました。娘の進路を完全に支配し、精神的・肉体的に追い詰める行為は、のぞみさんの人生を「囚人のような暮らし」へと変貌させました。この悲劇は、家庭内における精神的な支配や暴力がいかに深刻な結果を招きうるかを示す、痛ましい事例として、社会に重い問いを投げかけています。
参考文献:
- 『世界で起きた戦慄の復讐劇35』(鉄人社)
- 文春オンライン記事
- Yahoo!ニュース