米半導体大手インテル(Intel)の最高経営責任者(CEO)が、ドナルド・トランプ前大統領から「重大な利益相反」を理由に辞任を要求され、政治の矢面に立たされている。この要求は、リップブー・タン氏が中国企業への投資を行っているとの疑惑に対し、共和党の上院議員が懸念を表明した直後に出されたもので、経営再建を目指すインテルにとって新たな試練となっている。世界的な半導体サプライチェーンの再編が進む中、地政学リスクと企業統治の問題が改めて浮上している。
トランプ前大統領の突然の要求
2025年8月7日、トランプ前大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」への投稿で、インテルのリップブー・タンCEOに対し辞任を求める声明を発表した。トランプ氏はタン氏を「重大な利益相反を抱えた人物」と断じ、「即刻辞任すべきだ。この問題には他の解決策はない」と述べ、厳しい姿勢を示した。このトランプ氏の投稿を受け、インテルの株価は市場前取引で一時5%下落し、ニューヨーク時間の午前11時の時点でも3%以上の下落を記録した。
インテルCEOのリップブー・タン氏。中国関連企業への投資疑惑により、トランプ前大統領から辞任を要求される事態に発展した。
中国企業への投資疑惑と上院議員の追及
トランプ前大統領の投稿の2日前、アーカンソー州選出のトム・コットン上院議員(共和党)は、タンCEOが中国企業、特に中国軍と関係があるとされる企業に投資し、株式を保有していると報じられたことを受け、インテルの取締役会に書簡を送付し、疑義を投げかけていた。ロイター通信は4月、タン氏が数百に上る中国企業に投資しており、そのうち8社は中国人民解放軍(PLA)とつながりがある企業だと報じていた。インテルの広報担当者は当時、ロイターに対し、「当社は潜在的な利益相反を適切に処理し、アメリカ証券取引委員会(SEC)のルールに従って開示を行っている」と述べ、タン氏が利益相反の可能性に関する調査に回答済みであることを明らかにしていた。
カデンス・デザイン・システムズとの関連
コットン上院議員はまた、タン氏が2025年3月にインテルCEOに就任する前、カデンス・デザイン・システムズ(Cadence Design Systems)のCEOを務めていたことにも言及した。カデンス・デザイン・システムズは先週、中国軍の大学に違法に技術を輸出した罪を認め、1億1800万ドル(約171億1000万円)の罰金を支払うことに同意している。この過去の経緯も、今回の疑惑に影を落としている。インテルは、トランプ氏からのコメント要請に対して、まだ公式な回答を発表していない。
CHIPS法と国家安全保障の懸念
インテルは、2022年に制定された「CHIPSおよび科学法(CHIPS and Science Act)」に基づき、アメリカ政府から約80億ドル(約1兆1600億円)の補助金を受けている。この法律は、米国内での半導体生産を促進し、サプライチェーンの強靭化を図ることを目的としている。コットン上院議員は、「インテルは、アメリカの納税者の資金を責任を持って管理し、適用されるセキュリティ規制を遵守する義務がある」と指摘。「タン氏の交友関係は、インテルがこうした義務を果たす能力に疑問を投げかけている」と述べ、国家安全保障上の懸念を表明している。
今回のトランプ前大統領の辞任要求は、インテルが経営再建を進める上で新たな逆風となるだけでなく、米中間の技術覇権争いと、それに関連する企業経営者の利益相反問題が、今後も米国の政治における重要な焦点であり続けることを示唆している。特に巨額の政府補助金を受けている企業にとっては、地政学的な視点での透明性と倫理がこれまで以上に厳しく問われる時代になっていると言えるだろう。
参考文献
- Bryan Metzger, Samuel O’Brient, Business Insider Japan. (2025年8月8日). インテルのリップブー・タンCEO。Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/articles/bab641d285167f25d3ebf94e6347b556e9e3c888
- Reuters. (2025年4月). Intel CEO’s China investments scrutinized by US senator.
- Truth Social. (2025年8月7日). Donald Trump’s post.