奨学金の一括返済は「賢い」選択か?無利子と有利子で変わる返済総額の真実

夏のボーナスや貯蓄を使い、日本学生支援機構(JASSO)からの奨学金120万円を一括返済するケースが話題になることがあります。多額の負債からの解放は喜ばしいことですが、果たしてこの一括返済は金銭的に見て「賢い」選択と言えるのでしょうか。本記事では、奨学金の一括返済が返済総額にどのような影響を与えるのか、日本学生支援機構の奨学金制度の種類と返還方法を解説しながら、その真実を詳しく掘り下げていきます。

貸与型の奨学金制度を利用して大学や専門学校などに進学した場合、卒業後は原則として返還義務が生じます。返還期間や月々の返済額は個人の状況によって異なりますが、まとまった資金が手元にある際に「繰上返還」、つまり一括での返済を検討する方も少なくありません。この選択が将来の家計にどう影響するかを理解することは、賢いライフプランを立てる上で非常に重要です。

日本学生支援機構(JASSO)奨学金の概要:無利子と有利子の違い

学生の多くが利用している日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金には、大きく分けて二つの種類があります。一つは「無利子」で借りられる第一種奨学金、もう一つは「有利子」の第二種奨学金です。この利子の有無が、一括返済における「賢さ」を判断する上で決定的な要因となります。

第一種奨学金(無利子型)の返還方法と具体例

第一種奨学金は、利息が発生しないため、貸与された元金のみを返還します。返還月額と返還回数は、大学が国立・公立か私立か、また自宅から通学するか、自宅外から通学するかによって異なります。具体的な返還例は以下の表1に示されています。

日本学生支援機構 第一種奨学金の返還月額と返還回数の例(表1)日本学生支援機構 第一種奨学金の返還月額と返還回数の例(表1)

出典:独立行政法人日本学生支援機構「大学 ・ 返還例」を基に作成

返還方式には、前年の所得に応じて月々の返済額が毎年見直される「所得連動返還方式」と、毎月同じ額を返還する「定額返還方式」のいずれかを選択することが可能です。どちらの方式を選んでも、返還月額は変わってきますが、返済総額に利子分が加算されることはありません。

第二種奨学金(有利子型)の返還方法と金利の影響

一方、第二種奨学金は利子が発生するため、返還月額の算出には設定された利率が関係してきます。例えば、貸与月額が3万円の場合の返還月額と返還回数は、年利によって以下のように変動します。

日本学生支援機構 第二種奨学金の返還月額と返還回数の例(表2)日本学生支援機構 第二種奨学金の返還月額と返還回数の例(表2)

出典:独立行政法人日本学生支援機構「大学 ・ 返還例」を基に作成

金利の適用方法には、市場金利が変動しても利率が変わらない「利率固定方式」と、おおむね5年ごとに利率が見直される「利率見直し方式」の二種類があります。選択した方式によって、総返還額や返還回数も変化する可能性があります。

奨学金の一括返済は本当に「賢い」選択なのか?

日本学生支援機構の奨学金は、第一種・第二種ともに「繰上返還」が可能です。しかし、一括返済が金銭的に有利になるかどうかは、奨学金の種類によって異なります。

夏のボーナスで奨学金を一括返済する男性のイメージ夏のボーナスで奨学金を一括返済する男性のイメージ

無利子型(第一種奨学金)の場合:返済総額は変わらない

今回の事例のように「奨学金120万円を一括返済すること」の是非を考えると、まず第一種奨学金の場合は、利子がないため元本のみを返還することになります。したがって、一括返済を選択しても返還期間は短縮されますが、返還総額が少なくなることはありません。つまり、金銭的なメリットは発生しませんが、精神的な負担の軽減や、将来の家計管理の見通しが立つというメリットはあります。

有利子型(第二種奨学金)の場合:返済総額が減少する理由

これに対し、第二種奨学金は月々の返還額に利子が含まれています。このため、一括返済を行うことで、本来支払うはずだった今後の利子の支払いが不要になります。結果として、返還総額は当初の予定よりも少なくなるため、有利子の第二種奨学金を利用している方にとって、一括返済は「賢い方法」と言えるでしょう。金利負担を軽減し、最終的な支出を抑える効果が期待できます。

結論:有利子の奨学金なら一括返済は賢い選択

日本学生支援機構の奨学金は、無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金に分かれます。第一種奨学金の場合、返還するのは元本のみであるため、一括返済を行っても返済総額自体に変化はありません。

しかし、有利子の第二種奨学金を利用している場合であれば、話は別です。一括返済を実行することで、その後に発生する予定だった利子分の支払いが不要となり、結果的に返還総額を減少させることが可能になります。したがって、夏のボーナスや貯蓄を活用して奨学金を一括返済する行為は、特に第二種奨学金を借りている方にとっては、金銭的なメリットを享受できる「賢い選択」と言えるでしょう。自身の奨学金がどちらのタイプであるかを確認し、状況に応じた最適な返済計画を立てることが重要です。

参考文献

  • 独立行政法人 日本学生支援機構「返還例 大学」