統合型リゾート(IR)選定の新たな局面:日産追浜工場跡地の急浮上

大阪・関西万博の閉幕を10月に控え、日本国内における統合型リゾート(IR)の候補地選定に再び大きな注目が集まっています。IR整備法では設置箇所が「最大3カ所」と定められており、このうち1カ所は万博跡地が有力視されていますが、残る2カ所の行方は未定のままです。政府関係者によると、観光庁は昨年11月に都道府県と政令指定都市を対象としたIRへの関心度アンケートを実施し、2027年末の決定を目指しているとのこと。非公表とされているこのアンケート結果では、東京、北海道、愛知、長崎といった主要都市・地域が誘致に関心を示したとされていますが、これまでのところ、どの候補地もそれぞれに課題を抱えているのが実情です。

IR候補地選定の現状と既存候補地の課題

IR誘致に名乗りを上げている各地は、現在、それぞれ固有の問題に直面しており、選定プロセスを複雑にしています。

東京・お台場:企業連合と世論の逆風

IR候補地の最有力とされてきたのが東京のお台場です。しかし、事業主体となる企業連合には、特定の事件で世論の注目を集めているフジ・メディア・ホールディングスが含まれており、同社関係者からは「お台場活性化の起爆剤と考えていたが、口にできる立場にない」という声が聞かれます。これは、企業イメージや社会的な受容性の面で、誘致計画に大きな影響を与えかねない要因となっています。

北海道:元衆院議員の不祥事が誘致に影

北海道では、IR誘致の旗振り役であった秋元司元衆院議員が札幌市内の業者からの収賄容疑で実刑判決を受けたことが、誘致活動に暗い影を落としています。道関係者からは「そんな状況で鈴木直道知事がIR誘致を叫ぶのは憚られる」との見方が出ており、政治的な信頼性の問題が、今後のIR誘致の大きな足かせとなる可能性があります。

愛知県:中部国際空港の構造的制約

愛知県は中部国際空港の人工島内へのIR誘致に関心を示しています。空港に隣接する立地は、国内外からのアクセスという点で魅力的な一方、空港施設という特性上、建物に高さ制限がある点が大きなネックとなっています。IR施設がその魅力を最大限に発揮するためには、ランドマークとなるような高層建築物も考慮されることが多く、この高さ制限は開発の自由度を奪う要因となりえます。

長崎県:ハウステンボスにおける資本構成の変化

前回の選定で惜しくも落選した長崎県は、引き続きハウステンボスを誘致先としていますが、同施設の資本が香港資本となったことに新たな懸念が広がっています。IR施設には安定した運営基盤と、日本の法規制への完全な準拠が求められるため、資本の国際的な変化は、政府の審査において細かく評価されることとなるでしょう。

このように、既存のIR候補地はいずれも「帯に短し襷に長し」、つまり完璧な条件を備えているわけではなく、何らかの課題を抱えています。

新たな有力候補:日産追浜工場跡地の急浮上

日産自動車の新社長イヴァン・エスピノーサ氏が発表した追浜工場の生産終了後、IR候補地として注目される跡地を示す画像

そうした状況下で、にわかに新たな有力候補として急浮上したのが、日産自動車の追浜工場跡地です。日産の新社長に就任したイヴァン・エスピノーサ氏は、この伝統ある追浜工場の生産終了を発表しました。この広大な工場跡地は、これまでの候補地が抱えていたような複雑な政治的背景や構造上の制約が少ない、新たな大規模開発地としての潜在力を秘めています。

追浜工場は日産の歴史において重要な役割を担ってきた場所ですが、その生産活動が終了することで、都市開発の新たな機会が生まれます。大規模な平地であり、アクセス面でも優位性を持つ可能性があり、統合型リゾートの誘致に適した条件が揃っていると期待されています。これは、IR誘致を巡るこれまでの膠着状態を打破し、新たな局面を開く可能性を秘めた動きとして、関係者の間で大きな注目を集めています。

まとめと今後の展望

統合型リゾートの候補地選定は、大阪・関西万博の閉幕を控え、いよいよ本格的な検討フェーズに入ろうとしています。これまで有力視されてきた東京、北海道、愛知、長崎といった候補地は、それぞれに企業問題、政治的スキャンダル、地理的制約、資本構成の変化といった課題を抱え、決定を難しくしています。このような状況の中、日産自動車が生産終了を発表した追浜工場跡地が、広大な敷地と比較的少ない制約という点で、新たな強力な候補地として急浮上しました。

2027年末の決定に向けて、政府はこれらの候補地の条件を慎重に比較検討していくことになります。日産追浜工場跡地の出現は、日本のIR選定に新たな選択肢をもたらし、今後の議論の行方に大きな影響を与えることは間違いありません。日本経済の活性化と観光立国の実現に向け、最適なIR候補地の選定が強く期待されています。

参考文献