伊東市長の学歴詐称疑惑から学ぶ:元鎌ケ谷市長・清水聖士が語る「公人の苦悩と市政の内幕」

現在、東洋大学卒業の学歴詐称疑惑に揺れる静岡県伊東市の田久保真紀市長(55)に対し、「思慮が足りない」と苦言を呈するのは、元千葉県鎌ケ谷市長の清水聖士氏(64)だ。21年6月まで5期19年にわたり鎌ケ谷市政のトップを務めた清水氏は、自身の経験から、公職に就く者の「つらい現実」を鮮やかに語る。田久保市長が卒業証書の提出を拒否し、表明した辞任を撤回するなど強硬な態度を取ることで、市民の印象は悪化の一途を辿っている。清水氏は「トップとして、非があるならすぐに認め謝罪すべきだった」と指摘し、自身の著書『市長たじたじ日記』(三五館シンシャ)で赤裸々につづった市政の舞台裏を振り返る。

経歴詐称疑惑:自身の経験から学ぶ危機管理術

清水氏自身も、市長就任直後の2002年7月、初の議会で「経歴詐称」の疑惑に直面した経験がある。外務省勤務時代、一等書記官としてインド・ニューデリーの日本大使館にいた清水氏。しかし、この「一等書記官」という肩書きが問題の焦点となった。外務省には、在外公館勤務者に対し、外交上の必要性から大臣の承認を得て本来の等級より上位の呼称を使用できる「ローカル・ランク」という規定が存在する。

清水氏本来の等級は二等書記官だったが、このルールが適用され、名刺には「一等書記官」と記載されていた。この呼称の齟齬を反対派の議員が捉え、「経歴詐称に該当するのではないか」と議会で追及されたという。清水氏は一瞬動揺したものの、事前に質問内容を把握していたため、ローカル・ランクの適用と「一等書記官」という官職が記載された外交旅券を証拠として用意していた。彼は外交旅券を示し、外務省のルールを説明することで、辛うじて難を逃れた。この一件以来、清水氏は念のため経歴から「一等書記官」の記述を削除したと語る。この経験は、公人にとっての透明性と、些細な情報であっても正確性を追求することの重要性を示唆している。

怪文書の衝撃:デマと家族への影響

2期目の任期中には、さらに過酷な試練が清水氏を襲った。匿名による「怪文書」が広められたのである。ある時、隣接する柏市の市議から「清水さんについて書かれた奇妙な手紙が届いた」と連絡があった。その「奇妙な手紙」を郵送してもらうと、そこにはA4用紙3枚にわたる清水市長の「行状」が羅列されていた。

内容は「市長は休日出勤し、市役所女性職員の更衣室を覗いてロッカーを物色している」や「柏市のマンションの女性の部屋に出入りしているのを見た人間がいる」といった、にわかには信じがたいものだった。清水氏は「妙なリアリティがありショックだった」と述懐する。休日出勤は事実だったが、女性職員のロッカーを物色したことも、柏市に懇意にしている女性がいたこともなかった。しかし、このほとんどがデマである怪文書は、多くの人の目に触れたようだ。ある晩、妻から「柏の女って誰なの? 公用車に乗って夜外出するけど、あれは柏に行ってたの?」と問い詰められ、家族にも影響が及んだ。清水氏の説明に妻は納得してくれたものの、「柏の女」が事実だと受け止めた市民もいたかもしれない。幸い、政治的な影響はほぼなく、清水氏は無事に3期目の市長選に歴代最高得票数で当選したという。

地域との融和:生粋のカープファンからファイターズファンへ

広島県三原市出身の清水氏は、いわゆる「落下傘候補」として鎌ケ谷市長になった。自身は生粋の広島カープファンである。一方で、鎌ケ谷市には日本ハムファイターズの二軍施設がある。任期1期目の日曜日、日ハムの鎌ケ谷スタジアムで行われた少年野球イベントに、1975年にカープを初のリーグ優勝に導いた古葉竹識氏が来場することになった。

清水氏は、強い憧れを抱く古葉氏と緊張しながら言葉を交わし、イベントの代表としてスピーチを行った。「私は子どもの頃からカープファンです。先ほどは本日のゲスト古葉監督とお話ができ、とても光栄な気持ちです。古葉監督の指導により鎌ケ谷の子どもたちの野球技術が向上するよう祈っております」。しかし、イベント後の議会で、この挨拶が問題視された。「ファイターズの球場で行われたイベントにもかかわらず、市長は日ハム関係者や市民の前で広島ファンであることを公言しました。場違いな発言です」と批判されたのだ。

日本ハム時代の若き大谷翔平選手と、笑顔で並ぶ元鎌ケ谷市長の清水聖士氏。このツーショットは清水氏にとって市長時代の貴重な思い出であり、地方自治とプロ野球チームとの関係性を示す象徴的な一枚。日本ハム時代の若き大谷翔平選手と、笑顔で並ぶ元鎌ケ谷市長の清水聖士氏。このツーショットは清水氏にとって市長時代の貴重な思い出であり、地方自治とプロ野球チームとの関係性を示す象徴的な一枚。

予想外の批判であったが、日ハムの二軍がある鎌ケ谷市では、市のトップが他球団への愛を公言することを快く思わない市民がいても理解できると清水氏は語る。この一件で、彼は自身の配慮が足りなかったことを悟り、それ以降は「公的にはファイターズファン」になったという。地方自治体の首長として、地域に根差すプロスポーツチームとの関係性がどれほど重要かを示すエピソードである。

首長の特権:大谷翔平との貴重な交流

日本ハムのルーキーたちは、二軍施設内にある勇翔寮へ入寮する際、住民票を鎌ケ谷市へ移す。そのため、清水氏は市長として、多くの有名選手が若かりし頃に面識を持つ機会に恵まれた。ダルビッシュ有選手、中田翔選手、斎藤佑樹選手など、数々のスター選手たちと交流があったという。その中でも、世界的な大スターへと成長した大谷翔平選手と勇翔寮で撮ったツーショット写真は、清水氏にとって手放すことのできない「宝物」だ。

学歴詐称追及や怪文書といった逆境に晒される一方で、有名選手との交流など、地方自治体のトップならではの「役得」も存在した。清水氏の証言からは、議会の議事録だけでは決して窺い知ることのできない、市長という公人の生身の姿と、その職務が持つ多面性が鮮明に浮かび上がる。

結論:公人としての責任と市民への向き合い方

元鎌ケ谷市長・清水聖士氏の体験談は、伊東市の田久保市長が直面している学歴詐称疑惑の問題を深く洞察する上で貴重な示唆を与える。公職に就く者は、常に市民の厳しい目と向き合い、些細な言動でさえ批判の対象となり得るという現実。経歴詐称疑惑や怪文書といったデマ、そして地元愛に関する無意識の発言に至るまで、清水氏が経験した「公人の苦悩」は、地方自治の現場がいかに複雑で、人間的な側面を持つかを浮き彫りにする。

特に、田久保市長への助言である「非があるならすぐに認め謝罪すべきだった」という言葉は、危機管理の鉄則であり、信頼を損なわないための最も重要な教訓だ。市民からの信頼こそが公人の最大の基盤であり、その信頼を築き、維持するためには、透明性、誠実さ、そして何よりも市民への真摯な向き合い方が不可欠である。清水氏の経験は、困難な状況に直面した際の対応策と、地方自治のトップが直面する現実を教えてくれる、価値ある「市政の内幕」である。

参考文献

  • FRIDAYデジタル: 「【超レア画像】怪文書もまかれた…元鎌ケ谷市長「大谷翔平と2ショット」市政の内幕写真」 (2025年8月11日公開)
  • 清水聖士 著: 『市長たじたじ日記』 (三五館シンシャ)