日本全国でクマによる被害が深刻化しており、今年は過去最悪の状況に達しています。11月5日時点で、クマに襲われたことによる死者数は13人、負傷者は207人にのぼり、人命以外にもペット、家畜、農作物への被害も相次いでいます。こうした現状に対し、新たな対策が講じられていますが、その有効性には疑問も呈されています。
高まるクマ被害と新たな対策
近年、クマの目撃情報や被害が急増しており、特に今年の被害状況は憂慮すべきレベルにあります。直近では11月16日、秋田県能代市中心部の商業施設に体長約80センチのクマが侵入する事件が発生しました。従業員らの機転で客は無事避難し、クマは店内で駆除されるという事態に発展しました。
こうした異常事態を受け、国は対策を強化しています。2025年9月からは、人の生活圏に出没するクマを積極的に駆除するための法整備として「緊急銃猟制度」が導入されました。これにより、各市町村の判断で、地元の猟友会などへの委託により銃器を用いた駆除が可能になりました。さらに、11月には国家公安委員会規則が改正され、「危険鳥獣による人の生命、身体への危害防止」を目的として警察官がライフル銃を使用することも認められるようになりました。
過去最悪の被害レベルに達した今年のクマ出没
「人里クマ駆除」の限界:ベテランハンターの警鐘
しかし、こうした新たな対策に対して、東北地方の猟友会に所属する現役ハンター、加藤慎太郎さん(仮名、60代)は、「人里に降りてきたクマを撃っていたのでは手遅れになるし、キリがない」と指摘し、その限界を訴えています。加藤さんは、「『人里に降りたら酷い目に遭う』ということをクマに教えられれば良いが、動物は言葉を話せないため、自身が体験するか目の前で起きたことしか教訓にしない」と語ります。クマは群れを成さないため、単独で人里に降りてきたクマを一頭ずつ駆除しても、他の個体に教訓が共有されることはないというのが彼の見解です。
その一方で、加藤さんは、「それよりも、群れで行動するシカを撃ったほうが効率がいい」と、クマ被害対策の新たな視点を提唱しています。
餌不足だけではない?クマの食性変化と「シカ誘引説」
一般的に、クマが人里に降りてくる要因として「山に食べ物がなくなったから」という説が広く知られています。しかし、加藤さんはこの見方に異を唱えています。「私が見る限りではそうとも言い切れません」と彼は語ります。冬眠前にクマが好んで食べる木の実類は、昔に比べれば確かに減少しているものの、全くないわけではないというのが実情だといいます。ツキノワグマの足跡や糞が残るような場所でも、ドングリや椎の実が地面に豊富に残されているケースは珍しくありません。
代わりに加藤さんが近年よく目にするようになったのは、クマに襲われたとみられるシカの死骸です。これらの死骸は、栄養価の高い内臓だけがきれいに食べられており、肉には手をつけていないことが多いといいます。加藤さんは、「もしクマが飢えているのであれば、そんな食べ方はしないはずです」と推測します。クマは元々雑食ですが、シカの死骸や弱った個体を狙って食べることは知られています。そして最近では、以前よりもシカを積極的に食べるようになってきている印象があると、加藤さんは分析しています。
人里への誘引要因:シカの増加がもたらす影響
加藤さんの観察と分析は、クマが人里に降りてくる原因が単なる山での餌不足だけでなく、シカの増加とそれに伴うクマの食性変化にある可能性を示唆しています。クマがシカを積極的に捕食するようになった結果、人里付近に生息するシカの群れ、あるいはその死骸がクマをより頻繁に人里へと誘引しているのかもしれません。これは、今後のクマ対策を検討する上で、シカの生息状況を含めたより広範な生態系全体を見据えたアプローチの重要性を示唆する、衝撃的な新説と言えるでしょう。




