日本の意外な株長者たち:万博、海外展開、アミューズメントで見せる新たな富の源泉

世界の著名な投資家ウォーレン・バフェットのような「株長者」は日本にも存在する。しかし、日経新聞が7月25日に発表した3月期決算企業の役員自社株保有額ランキングでは、ソフトバンクグループの孫正義氏が4兆4863億円で1位、キーエンスの滝崎武光氏が2位と続く中、ITや半導体といった成長産業のイメージとは異なる、意外な分野から新たな資産家が浮上している。メルカリの山田進太郎氏やファーストリテイリングの柳井正氏のようなお馴染みの顔ぶれが異なる決算期のため登場しない中、彼らが示す日本の「富の源泉」の多様性は注目に値する。

ソフトバンクグループCEO孫正義氏の肖像。日本の株式長者番付で首位を獲得した同氏の資産を示す。ソフトバンクグループCEO孫正義氏の肖像。日本の株式長者番付で首位を獲得した同氏の資産を示す。

産業廃棄物処理で急伸「大栄環境」金子氏:大阪・関西万博の期待

ランキング3位に突如として現れたのは、神戸市に本社を置く「大栄環境」社長の金子文雄氏だ。保有する自社株の時価総額は1941億円に達する。同社は主に産業廃棄物の処理事業を展開しており、金子氏は資産管理会社を通じて約61%の株式を保有している。産業廃棄物処理業がこれほど大きな富を生むのかという疑問に対し、雑誌「経済界」編集局長の関慎夫氏は、同社が西日本を中心に事業を展開しつつも、特に「大阪・関西万博」終了後の産業廃棄物処理需要に大きな期待が寄せられていると指摘する。ほとんどのパビリオンが解体されることで発生する莫大な処理費用が、同社の収益を押し上げる要因となる見込みだ。この将来性への期待感からか、2022年に上場した同社の株価はすでに1.5倍以上に高騰している。

鉄鋼業界の隠れた高収益企業「大和工業」井上氏:海外展開の妙技

12位にランクインしたのは、大和工業会長の井上浩行氏で、保有株時価は671億円である。大和工業は鉄スクラップを原料に鉄鋼を製造する電炉メーカーであり、その売上高に対する純利益率は2割近くに達するという驚異的な高収益性を誇る。これは、日本製鉄がUSスチールを買収したことでも話題になった製鉄業界において、「稼ぐ力」で一歩先を行く存在と言える。関氏は、井上会長が創業2代目の経営者でありながら、早期から海外の製鉄メーカーとの協業に積極的に乗り出してきた点を評価する。特に、アメリカ最大の鉄鋼メーカーであるニューコアとの合弁事業は、トランプ関税のような貿易障壁の影響も受けにくい強固なビジネス基盤を築いているという。堅実かつ戦略的な海外展開が、同社の安定した高収益と井上氏の資産形成に繋がっている。

「推し活」と米国市場で躍進「ラウンドワン」杉野氏:アミューズメントの再興

そして、3人目の意外な人物は、アミューズメント施設運営の「ラウンドワン」社長、杉野公彦氏である。保有株時価は878億円で、昨年17位から一気に9位へ浮上した。同社の特筆すべき点は、売上高の約半分をアメリカ市場で上げていることだ。ラウンドワン広報担当者によると、杉野氏の持ち株比率は以前からほぼ変わっておらず、国内では人気アイドルへの「推し活」をコンセプトにしたカラオケ事業、海外ではアメリカでの事業拡大が、同社の成長ドライバーとなり株価を大きく押し上げているという。これは、ITや半導体といった分野だけでなく、新たな着想とグローバル展開によってアミューズメント産業が再び成長軌道に乗る可能性を示している。

これらの事例は、日本の経済において富の源泉がITや半導体といった特定の成長産業に限らず、多様な分野に存在していることを示唆している。産業廃棄物処理、鉄鋼業、アミューズメントといった伝統的あるいは意外な産業においても、先見の明と独創的な経営戦略によって大きな成功を収め、新たな「株長者」が誕生している現状は、日本の産業構造の奥深さと潜在的な多様な成長力を浮き彫りにしていると言えるだろう。

参考文献

  • 日本経済新聞
  • 週刊新潮 2025年8月7日号
  • 雑誌「経済界」