ウクライナ戦争帰還兵による犯罪増加:ロシア社会の新たな脅威

ウクライナ戦争から故郷へ戻ってきた軍人たちが、ロシア社会に新たな恐怖をもたらしています。かつて「戦争の英雄」として称えられたはずの彼らが、隣人を殺害する殺人犯へと急変する事例が後を絶たないためです。独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)は最近、ウクライナの戦場から帰還し、犯罪に手を染めるロシア軍人の問題を集中的に取り上げています。今年5月、モスクワから約250キロ離れたクラスニ村では、54歳の司書女性が遺体で発見され、犯人が休暇中の軍人と判明したことで、地域社会に大きな衝撃が走りました。

英雄から殺人者へ:故郷を襲う兵士たちの影

ロシアの独立系メディア「ビョルストカ」によると、2022年のウクライナ侵攻開始以降、ロシア軍人によって死亡または重傷を負ったロシア人は、少なくとも754人に上ります。このうち196件は殺人事件と推定されていますが、実際の死亡者数はさらに多い可能性も指摘されています。被害者の大半は加害者の家族や友人であり、加害者側には前科があるケースが多く見られます。

ロシアの国営メディアは、軍人を英雄と称え、こうした事件を報道しない傾向にあります。しかし、地域メディアでは詳細が伝えられており、軍は「軍人への信頼を毀損するフェイクニュース」の流布に対し、刑事訴訟で対抗すると強調しています。

ロシア、カザン市内で軍人のポスターの前を歩く市民。ウクライナ戦争の「英雄」として宣伝される一方で、帰還兵による犯罪が増加し社会に不安が広がっている状況を示唆。ロシア、カザン市内で軍人のポスターの前を歩く市民。ウクライナ戦争の「英雄」として宣伝される一方で、帰還兵による犯罪が増加し社会に不安が広がっている状況を示唆。

「囚人部隊」とプーチン大統領の恩赦制度

社会の不安感を拡大させている原因の一つに、収監者からなる「囚人部隊」の存在があります。ロシアのプーチン大統領は、6カ月間の軍務を終えた者を恩赦の対象としてきました。恩赦を受けた犯罪者の正確な数は不明ですが、凶悪犯罪を犯した者でさえ処罰を免れるために自発的に軍へ入隊しようとする風潮が生まれています。例えば、10代の青少年4人を殺害した容疑で20年の刑を言い渡されたニコライ・オゴロビアクは、軍に入隊して重傷を負い恩赦されましたが、その後麻薬関連の容疑で再び10年の刑を宣告されると、軍への復帰を表明しました。

監獄の代わりに軍へと逃避する者もいます。元妻とその交際相手を殺害して収監されたキリル・チェフリギンは、監獄で入隊申請書を提出しました。被害女性の母親は、「彼が罪を償うためでなく、処罰を避けるために戦争に行くことを望んでいる」と語り、「彼が報復に来るのではないかと恐怖を感じる」と述べました。チェフリギンが恩赦されれば、5歳の子どもの養育権を得る可能性すらあります。ワシントン・ポスト(WP)は、「プーチン大統領の戦時社会における最もディストピア的な側面は、殺人犯や強姦犯が戦争へ赴き恩赦を受け、戦後に家へ戻れるようにしたことだ」と指摘しています。

高まる犯罪率と背景にある軍内部の暴力性

帰還軍人による犯罪の増加は、統計データにも表れています。ロシア内務省によると、昨年発生した重大犯罪は合計61万7301件に上り、これは2014年以降で最多の件数です。

専門家は、ロシア軍内部に蔓延する暴力的な雰囲気が犯罪増加に影響を及ぼしていると見ています。欧州政策分析センター(CEPA)のアナリスト、キリロワ氏はWPに対し、「ロシアの最前線は、指揮官が兵士に対して犯罪を犯す温床となっている」と述べ、「問題はそのような人々が全く処罰を受けないことだ」と指摘しました。軍紀維持の名目で兵士への殴打や監禁などの残虐行為が横行しているにもかかわらず、指揮官が特に処罰されない現状があります。また、多くの軍人が外傷後ストレス障害(PTSD)を経験していますが、心理的支援は極めて不足しているのが実情です。

歴史が示す警鐘:アフガニスタン戦争の教訓

1989年のソ連時代にも、アフガニスタン戦争から帰還した参戦勇士による犯罪が急増した歴史があります。FAZは、「権力者は、数十万人の参戦勇士の帰還が深刻な治安の脅威を招くという点を認識している」と伝えており、現在のロシアが直面している問題は、過去の教訓から目を背けるべきではないと警鐘を鳴らしています。

ロシア社会は今、ウクライナ戦争の英雄として送り出したはずの兵士たちがもたらす、予期せぬ「闇」に直面しています。彼らの再社会化と心理的ケア、そして軍内部の環境改善が喫緊の課題であり、その解決なくして社会の真の安定は望めないでしょう。

Source:

  • フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)
  • ビョルストカ
  • ワシントン・ポスト(WP)
  • ロシア内務省
  • 欧州政策分析センター(CEPA)