本田圭佑氏、南京事件に関する発言を撤回:なぜ炎上し、見解を改めたのか

サッカー元日本代表の本田圭佑氏(39)が、日中戦争中に起きたとされる「南京事件」を巡る私見をX(旧Twitter)で発表し、大きな波紋を呼びました。しかし、その発言は賛否両論を巻き起こし、本田氏自身もその後、自身の見解を撤回し説明を行っています。一体何が起きていたのか、その背景から本田氏の最新のメッセージまでを詳細に追っていきます。

本田氏の「南京事件」に関する最初の発言とその背景

事の発端は、本田氏が2025年8月8日に自身のXアカウントで「僕もそう信じてる」と投稿したことでした。この投稿には、元東京都知事の石原慎太郎氏(享年89)と河村たかし衆院議員(76)による2012年11月の記者会見の一部を切り取った動画が添えられていました。この会見は、河村氏が代表を務める「減税日本」と石原氏が共同代表を務める「太陽の党」の合流発表の場でした。

動画内では、記者が河村氏の「南京事件はなかった」とする発言に対し、石原氏が「それが正しい」と擁護した件について質問しています。これに対し石原氏は、「日本軍がわずかの占領の間に、あの武器体系の中で40万人殺したという証拠を出してもらいたい、抗議するなら」と主張。さらに「南京の市民を一番殺したのは蔣介石の軍隊だよ」「日本が占領し直したら市民がたくさん帰ってきたじゃないですか」と発言しました。

河村氏もまた、「日本人がですね、南京で30万人(を殺した)。アメリカの教科書では40万人(を殺した)と書いてありますけども。もし市民を本当に殺害したならね、本当だったらですよ、日本人が全員で南京行って土下座しても許されませんよ、これ。だけど違うんだったら、ひとこと議論させてもらってもいいじゃないか」と述べ、議論の必要性を訴えていました。

記者がこの質問をした背景には、2012年2月に河村氏(当時、名古屋市長)が名古屋市を訪問した中国共産党南京市委員会の代表団に対し、「戦闘行為はあったとしても、いわゆる南京事件はなかったのではないか」と発言したことがありました。当時、石原氏(当時、東京都知事)はこの河村氏の発言を定例記者会見で「河村君の言うことが正しいと思います」と擁護していました。

「南京事件」とは何か:日本政府の見解と歴史認識の多様性

南京事件は、1937年12月に当時の中国の首都・南京を日本軍が陥落させた際、中国兵捕虜や一般市民らを殺害し、強姦などを重ねたとされる事件です。しかし、事件の有無や具体的な犠牲者数については現在も議論が分かれています。

日本政府の公式見解は、外務省のウェブサイトに示されており、そこには「日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難であると考えています」と記載されています。

また、2010年に公表された日中両国の有識者による歴史共同研究委員会の日本語論文では、犠牲者数について様々な推計が紹介されています。「日本軍による虐殺行為の犠牲者数は、極東国際軍事裁判における判決では20万人以上(松井司令官に対する判決文では10万人以上)、1947年の南京戦犯裁判軍事法廷では30万人以上とされ、中国の見解は後者の判決に依拠している。一方、日本側の研究では20万人を上限として、4万人、2万人など様々な推計がなされている」と明記されており、犠牲者数に諸説ある背景として、「『虐殺』(不法殺害)の定義、対象とする地域・期間、埋葬記録、人口統計など資料に対する検証の相違が存在している」と説明されています。

SNS上での賛否両論と本田氏の見解撤回

本田氏が石原氏と河村氏の発言を支持する形での投稿を行ったところ、X上では瞬く間に賛否両論が巻き起こりました。一部のユーザーからは、「そう信じる根拠を聞きたいよね」「本田圭佑は南京大虐殺がなかったと信じてるんだってさ。大丈夫か?」「本当に情けなく恥ずかしいポスト。ご自分の発言に影響力があることを自覚してください」といった否定的な声が多数寄せられました。

これらの反応を受け、本田氏は翌日2025年8月9日にXを更新し、自身の見解を撤回しました。彼は「石原慎太郎さんのことが好きなこともあり、歴史のことは知ってたつもりだったものの、希望的コメントをしました」と前置きしつつ、「ただ一次資料などを詳しく調べたら、事実はほぼ歴史通りであると思いました。この点、僕の間違いでした。(改めて勉強するキッカケを頂き、ありがとうございました!)」と説明しました。

南京事件に関する発言で注目を集める元サッカー日本代表・本田圭佑氏南京事件に関する発言で注目を集める元サッカー日本代表・本田圭佑氏

さらに、投稿のスレッドでは「一次資料」として、「兵士の日記・書簡」「軍内部文書」「南京安全区国際委員会(国際安全地帯)」「外国報道機関」といった項目ごとに南京事件に関する資料や記録を具体的に列挙。その上で、「これらの史料は、戦後になって創作されたものではなく事件直後から存在し、複数の国・立場からの独立した記録が一致しているため、学術的に高い信頼性がある」と、自身の修正に至った経緯と根拠を明示しました。

本田氏の見解撤回と誠実な対応には、「このツリー素晴らしいと思います。世界的アスリートまで上り詰めた人の自己修正能力。きちんと一次資料にあたろうとする姿勢」「Xでの反応を知りすぐ一次資料にあたり、『僕の間違いでした』と訂正した本田圭佑さんの姿勢は潔い」と評価する声が上がる一方、「たった1日で一次資料を精査するとか設定に無理がありすぎ」「たくさんの本をあげていたけど、本当に読んだのですか?一日で、手に入れて読める量ではないと思ったので」といった懐疑的な意見も寄せられました。

本田氏の再度のメッセージ:政治的立場を超えた呼びかけ

歴史認識を巡る議論が過熱する中、本田氏もまた、この状況に頭を悩ませていたようです。8月10日には自身のXで、「コメントをしてくださってる皆さんへ」と切り出し、改めてメッセージを発信しました。

彼は「先ずは時間を使ってくださり、ありがとうございます」と感謝を述べた上で、「僕はコメントでも言われてるような右とか左とか、どちらとも違うと思ってます。どちらの良い部分も両方持ち合わせた考えだと思ってます」と、特定の政治的立場に属さない自身の考えを表明しました。そして、「皆さんのような自分の考えとは違う人の揚げ足を取ったり、誹謗中傷をしてる人とは、話し合って分かり合えるとは思っていないですが、自分が日本を愛してること。そして中国にも友人らがいること。これらを伝えておきたいとメッセージしています」と、自身の真意を伝えようと努めました。

最後に「今後も挑戦の数だけミスをすると思いますが、引き続き揚げ足取るのに時間をかけてください」と締めくくり、この件に関する本田氏からの新たな発言は、2025年8月11日17時現在、確認されていません。

本田圭佑氏の一連の発言と対応は、著名人のSNSにおける影響力、歴史認識の複雑さ、そしてインターネット上での議論のあり方を改めて浮き彫りにしました。情報が瞬時に拡散される現代において、公の立場にある人物の発言は大きな責任を伴い、同時に誤りを認めることの重要性も示唆しています。


参照元:Yahoo!ニュース