「現在、約50ヵ国が雲を意図的に操作しているとされる」と、2025年3月、スイス紙「ル・タン」は報じた。要するに、50の国々がヨウ化銀などで“雲の種を蒔き”、雨を降らせているのだ。
同紙によると、「中国は『天河計画』というプロジェクトのもと、数十年にわたって人工降雨技術を活用しており、チベット高原に設置された数千もの大砲が、空を『砲撃』している」という。「アブダビも非常に活発だ。また、イスラエルは2021年以降活動を停止しているようだが、2018年、イランはイスラエルに対し、『雲を盗んだ』と非難した」。その際、イラン軍の高官は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)がイランの気候に介入し、雲と雪を盗んだと糾弾した。
イランは2024年、トルコを相手に再びこの主張を繰り返した。その状況について、「すべてはSNSで拡散された数枚の写真から始まった」と米「フォーブス」誌は伝える。写真はトルコとイランの対照的な気候を映し出していた。トルコ側には曇り空と雪に覆われた山々、一方、イラン側には絶望的なまでに青い空と乾いた山々が見える。この写真が荒唐無稽とも言える説を煽った。
「トルコはクラウド・シーディング(註:雨粒の種となる物質を人為的に散布し、降雨を促す技術)を用いて、イランの『雨』を盗んでいる」
この主張は、気象機関によって否定されてきたにもかかわらず、雲からの雨水が、本来落ちるべき場所から逸らされているという考えはたびたび浮上してきた。その背景には(特に中東地域における)、多岐にわたる研究プロジェクトがある。
クラウド・シーディング先進国
2022年、英誌「エコノミスト」は、世界でもっとも乾燥した国の一つであるUAEが、「世界でもっとも高度なクラウド・シーディングプログラムを備えている」と報じた。
「週に1〜2度、飛行機が雲の合間を飛行し、雨を降らせるためにヨウ化銀や塩などの化学物質を散布している。これらの化学物質は水滴を吸着するよう設計されており、充分に水滴が大きくなり、地上に雨を降らせることが期待されている」
同誌によると、UAEは化学物質を使う代わりに、放電によって振動を引き起こして水滴を凝集させるドローンの実験もおこなっている。こうしたドローンも含め、アブダビでは年間約200回のミッションが実施されているという。
人工降雨は、いま、別の問題も提起している。すなわち、私たちの頭上を漂う雲、そしてその中に含まれる水は「いったい誰のものなのか?」。
Courrier international