南アフリカ共和国の広大な草原で狩猟中の米国人億万長者が、追跡していた野生のバッファローに襲われ即死するという痛ましい事故が発生しました。このニュースは世界中で報じられ、特に「トロフィーハンティング」という行為とその倫理的側面について、インターネット上で大きな議論を巻き起こしています。この悲劇的な出来事は、趣味としての狩猟、野生動物の保護、そして生命の尊厳に対する社会の多角的な視点を浮き彫りにしています。
狩猟中の悲劇:南アフリカでの不運な事故
報じられたところによると、米テキサス州出身の億万長者、アッシャー・ワトキンス氏(59)は今月3日、南アフリカ共和国リンポポ州にあるサファリでバッファロー狩りを行っていた最中に、この強力な野生動物の反撃に遭い命を落としました。ワトキンス氏は、現地の高級狩猟ツアーに参加し、専門の狩猟ガイドと共にバッファローを追跡していたとされています。時速56キロメートルという猛スピードで突進してきたバッファローに突き飛ばされ、その鋭い角が体に突き刺さったことで、ワトキンス氏は現場で即死したとのことです。
南アフリカの草原で起きた億万長者の狩猟事故を描いたイラスト。バッファローと狩猟者の姿が強調されている。
事故現場に急行した救急救助隊の関係者は、ワトキンス氏が肋骨と腹部に深刻な損傷を負って倒れており、「救急車に遺体を搬送すること以外、何もできることがなかった」と当時の状況を語っています。この突然の悲劇は、サファリでの狩猟に潜む危険性を改めて示唆するものとなりました。
物議を醸す「トロフィーハンティング」と億万長者の過去
ワトキンス氏は、米テキサス州で数百万ドル規模の高級牧場不動産を扱うファミリー企業「ワトキンス・ランチ・グループ」のマネージング・パートナーを務める成功した実業家でした。しかし、彼のもう一つの顔は、世界各地で野生動物を狩り、その体の一部を記念品(トロフィー)として収集する「トロフィーハンティング」の愛好家でした。彼は自身の交流サイト(SNS)を通じて、ピューマや大型のオスのシカ、数百羽に及ぶ野鳥など、様々な獲物の写真を公開しており、その活動は以前から一部で物議を醸していました。
ワトキンス氏はこの狩猟ツアーの常連客であり、今回も多額の費用を投じて参加したと報じられています。今回のツアーでは、初日にウォーターバックのオスを仕留め、2日目に標的としていたバッファローを追っていた最中に今回の不運な事故に見舞われました。現地メディアの報道によると、ワトキンス氏は家族と共に数万ドルをかけて南アフリカ共和国を訪れ、捕獲した動物の種類に応じて追加料金を支払っていたと推定されています。特に、彼が追跡していたバッファローのハンティング費用は、1頭あたり7500ポンド(日本円で約150万円)にも達すると言われています。
家族の悲しみとインターネット上の「因果応報」論争
事故発生時、ワトキンス氏は母親、きょうだい、義理の父親、元妻と共に高級サファリロッジに滞在しており、16歳の娘も同行していました。この突然の悲劇に、遺族は深い悲しみに包まれています。ワトキンス氏の元妻であるコートニーさんは、自身のSNSに「この現実は受け止めがたい。娘のために一日一日を耐えている」という長文の追悼文を投稿し、その深い苦悩を吐露しました。
しかし、この事故に対するインターネット上の反応は、遺族の悲しみとは対照的なものとなりました。ワトキンス氏の死を「因果応報」と捉える投稿が多数寄せられ、「彼は生前、狩猟で命を奪った動物を誇示してきたのだから、彼の死は哀悼に値しない」といった厳しい意見がインターネット上で拡散しました。さらに、ワトキンス氏を襲ったバッファローも、狩猟専門ガイドが放った銃弾に当たり、その場で死亡していたことが判明。この事態を受け、ワトキンス氏にではなく、命を落としたバッファローに対する哀悼の言葉が多数寄せられるという特異な状況が生まれました。こうした否定的な世論の高まりを受け、コートニーさんはSNSに掲載していた追悼文を削除せざるを得ない状況に追い込まれました。
当局による徹底調査の行方
この南アフリカでの狩猟事故を巡る否定的な世論と、社会的な議論の広がりを受け、現地当局はワトキンス氏の事故に関する詳しい経緯を把握するため、現在も徹底した調査を進めています。この調査は、事故の原因究明だけでなく、今後のサファリでの狩猟活動の安全性や倫理に関する議論にも影響を与える可能性があります。
今回の事件は、個人の趣味と野生動物の保護、そしてそれに伴う生命の尊厳という複雑なテーマを社会に突きつけるものとなりました。一人の億万長者の死が、地球規模での野生動物保護のあり方や、人間と自然との関わり方について再考を促すきっかけとなるかもしれません。今後の調査の進展と、この事件がもたらす社会的な影響が注目されます。
参照元:
- 朝鮮日報日本語版 (https://www.chosunonline.com/svc/view.html?contid=2025081280013&no=1)
- Yahoo!ニュース (元記事) (https://news.yahoo.co.jp/articles/845cc431ff6c584f429ea58f32ea3cd4b2074f50)
- 英紙ガーディアン、デイリー・メールなど(記事内で言及)