トランプ米政権による国内有名大学への圧力が増しており、政権の意向に沿った「改革」を進める大学が相次いでいる。これらの大学は、合意に至ることで凍結されていた助成金の解除を実現した。一方で、名門ハーバード大学は留学生の受け入れ資格取り消しといった強硬な圧力に直面しながらも抵抗を続けており、その今後の対応が国際的に注目されている。この一連の動きは、米国の高等教育機関における「大学の自治」と政治的介入の境界線に大きな問いを投げかけている。
主要大学の譲歩:助成金凍結解除の代償
今年7月、政権との合意に達したのは、コロンビア大学、ブラウン大学、ペンシルベニア大学の3校である。これらの大学は、ハーバード大学と共に「アイビーリーグ」を構成する東部の名門私立大学であり、いずれも「反ユダヤ主義」への対応や多様性の推進に関する政権の方針に反しているとして、助成金を凍結されていた。各校が政権と交わした合意事項は多岐にわたる。
コロンビア大学:反戦運動と公民権問題
パレスチナ自治区ガザ地区での反戦運動の起点となったコロンビア大学は、政権に対し3年間で2億ドル(約295億円)以上の支払いを約束した。さらに、入試や採用において人種的マイノリティー(少数派)の優遇措置を認めない政権の方針に従うほか、学内での抗議活動の取り締まりを強化することでも譲歩した。合意事項の履行状況を評価する独立した監視員の設置も受け入れた。これらと引き換えに、政権はユダヤ系学生への対応をめぐる公民権法違反の疑いでの調査を停止し、助成金の凍結を解除した。
ブラウン大学:性別認識とユダヤ学強化
ブラウン大学は、性別を「生物学的な男女」のみに限定する政府の方針に従うことを表明した。また、イスラエルに関する研究や教育、ユダヤ学研究のプログラムを充実させることも合意内容に含まれる。政府への直接的な支払いは発生しないものの、地元のロードアイランド州の職業訓練団体へ5000万ドルを拠出する。
ペンシルベニア大学:トランスジェンダー選手の競技参加禁止
ペンシルベニア大学は、トランスジェンダー女性の競泳選手が樹立した学生記録を取り消し、他の女性選手が「不利益を受けた」ことに対し謝罪した。今後、女子スポーツ競技へのトランスジェンダー選手の参加を禁じる方針を示した。この決定は、スポーツにおける公平性と包括性に関する議論を一層深めるものと見られている。
ホワイトハウスで演説するトランプ米大統領
大学が譲歩を迫られる背景:財政と自治の狭間
各大学が政権の要求に応じざるを得ない背景には、深刻な財政的圧力が存在する。ハーバード大学のように裁判で司法闘争に持ち込めば、大学にとって費用負担は膨大となり、助成金を「武器」とした兵糧攻めは長期化する。さらに、政権から別の形で圧力を受けるリスクも常に付きまとう。学内外からは、大学の自治への過度な介入を許すことへの強い批判の声が上がっているにもかかわらず、多くの大学は財政危機の解消を優先し、譲歩を迫られているのが現状だ。
ハーバード大学の抵抗と今後の見通し
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、トランプ政権はコロンビア大学との合意を、他大学との交渉における「青写真」として位置づけているという。複数の米メディアは、ハーバード大学が近く政権と和解する可能性があるとの見方を伝えており、大学側が職業訓練プログラムに5億ドルを寄付する案などが浮上している。しかし、地元紙ボストン・グローブは14日付の記事で、依然として「重大な相違点」が残されていると報じており、交渉の行方は不透明だ。ハーバード大学の動向は、今後の米国の高等教育機関と政権との関係性を占う上で、極めて重要な指標となるだろう。
参考文献
- AP通信
- ウォール・ストリート・ジャーナル
- ボストン・グローブ
- 毎日新聞