参院選後、新興政党である参政党の躍進は、従来の日本の政治地図に新たな常識を刻みました。ノンフィクションライターの石戸諭氏が、この現象を深掘りし、「空気」で選ばれたスローガンがどのように参院選の争点を変え、そして、一体どのような人々がこの党の支持者となったのかを分析します。
国政の常識を塗り替えた参政党の快進撃
参院選投開票日を翌日に控えた7月19日夕刻、東京・芝公園。参政党代表・神谷宗幣氏(47)の「いち、にい、参政党!」という掛け声に拳を掲げたのは、他党ではあまり見られない「普通の人々」でした。
参政党代表の神谷宗幣氏の肖像
30代前後の子連れのカジュアルな層、ロックバンドTシャツを着た若いカップル、そして党のシンボルカラーであるオレンジ色の服を身につけた中高年の女性たち。彼らの熱気は、夕闇に染まりゆく東京タワーと重なり合い、独特の光景を作り出していました。
参政党の街頭演説に集まった聴衆の様子。普通の人々が熱心に耳を傾ける光景。
今回の参院選は、国政の常識が塗り替えられた選挙として記憶されるでしょう。政権を担う自民党や公明党、さらには野党第一党の立憲民主党が議席を伸ばすのに苦戦する中、改選前は神谷氏のわずか1議席のみだった参政党が、一挙に14議席を獲得する快挙を達成しました。比例代表では、現役世代を中心に742万票を集め、野党では国民民主党に次ぐ第2位という驚異的な結果を残したのです。
論争を呼ぶ主張と「穏やかな」支持層の乖離
「日本人ファースト」を掲げ、反グローバリズム論、極端な反ワクチン論、荒唐無稽な陰謀論的発言が相次いだ参政党には、日増しに抗議の声が高まりました。この日の会場でも、「差別に抗う」と書かれたプラカードを掲げた人々が集まっていましたが、多くの一般参加者はそうした見慣れない集団を遠巻きに眺め、恐れる様子を見せていました。
この光景は一見すると極めて奇妙です。排外主義的で激しいメッセージを掲げる政党であるにもかかわらず、その支持者の大多数は温厚で、まるで休日の公園にいるかのような人々に見えたからです。参政党の支持層を同心円状に捉えるならば、その中心には排外的な外国人政策や反ワクチン論を強く主張するコアな支持者がいるかもしれません。しかし、その周辺に位置する多数派は、そうした特定の主張に強く縛られているわけではないようです。あまりの急進的な動きに、背後に何らかの大型組織が存在するとも囁かれましたが、綿密な取材を重ねても、そのような大規模な組織票が見当たることはありませんでした。
参政党の躍進が示す新たな民意の動き
参政党の躍進は、従来の政治の枠にとらわれない新たな民意の動きを示しています。その支持層の多様性と、一部の過激な主張との間の乖離は、今後の日本政治における重要な研究テーマとなるでしょう。「普通の人々」が何に共鳴し、何を求めて投票行動に至ったのか、その真の姿を理解することが、これからの政治動向を読み解く鍵となるはずです。





