北海道・知床半島に位置する羅臼岳(標高1660メートル)で14日に発生した登山中の男性へのヒグマ襲撃事件において、行方不明となっていた男性の遺体が15日、現場付近で発見されました。道警は、亡くなった男性が東京都墨田区向島在住の会社員、曽田圭亮さん(26)であることを発表。登山シーズン真っ只中に起きたこの衝撃的な人身被害は、世界自然遺産である知床地域の観光に深刻な影響を及ぼすのではないかと、地元では懸念が広がり始めています。
知床観光への影響と地元の懸念
斜里町によると、夏季は羅臼岳をはじめとする知床の山々を訪れる登山客にとって最も賑わう季節です。多くの登山客は、早朝から登頂を開始するため、町内のウトロ地区に前泊する傾向にあります。知床地域は他の地域と比較してヒグマとの距離が近いとされていますが、町によればこれまで大規模な人身事故は発生していませんでした。町幹部は今回の事態を受け、「観光客にとってのショックは非常に大きいだろう。この地域が『怖い場所』という印象を持たれる可能性があり、心配だ」と語り、風評被害への懸念をにじませています。
羅臼岳への登山道に続く岩尾別川沿いの道路。ヒグマ出没により封鎖された区域を示す。
観光名所の閉鎖と訪問者の落胆
ヒグマ襲撃事件を受けて、ウトロ地区では15日も知床五湖などの主要な観光名所が閉鎖されました。東京都から親子で知床を訪れたという60歳代の男性は、「入ることができないのは非常に残念でならない」と肩を落としていました。また、羅臼岳の登山口にほど近い岩尾別温泉駐車場も封鎖され、無料の露天風呂を楽しみに来ていたという都内の20歳代の男性2人組は、「あちこち入れなくなってしまって困惑しています」と、予定が狂ったことへの不便さを訴えました。
羅臼町側の反応と問い合わせ状況
一方、知床羅臼町観光協会(羅臼町)の報告によると、羅臼町側に宿泊して登山を目的とする観光客は、斜里町側に比べて比較的少ない傾向にあります。しかし、14日以降には「ニュースを見たが、そちらは大丈夫か」といった安否を尋ねる問い合わせが数件寄せられているとのことです。担当者は、今回の事件が今後どのような形で観光業に影響を及ぼすのかについて、「非常に気になっている」と述べ、状況を注視していく姿勢を示しました。
道の専門家派遣と注意報発令
北海道は15日、この重大な事態を受け、道立総合研究機構(札幌市)のヒグマの専門家2名を斜里町へ派遣しました。専門家たちは16日以降、男性がヒグマに襲われた現場などを詳細に視察し、被害状況や周辺の環境について徹底的な調査を進める予定です。さらに道総研は、15日に駆除された3頭のヒグマについてDNA鑑定を実施し、男性を襲った個体であるかどうかの確認を急いでいます。男性がヒグマに襲撃されたことを受け、北海道は14日から羅臼岳の登山道周辺に「ヒグマ注意報」を発令しました。道ヒグマ対策室の発表によると、少なくとも3頭のヒグマが男性を襲った個体と特定されるまでは、この注意報は解除されない方針です。注意報の解除時期については、斜里町および羅臼町と協議の上、慎重に決定されることになっています。
今回の羅臼岳でのヒグマによる人身被害は、知床地域の自然環境と観光のあり方に改めて警鐘を鳴らす出来事となりました。地元経済への影響が懸念される中、北海道当局は専門家による調査を進め、適切なヒグマ対策と情報発信を通じて、登山者や観光客の安全確保に努めることが求められます。この悲劇を教訓に、人とヒグマが共存できる安全な環境づくりへの取り組みが今後一層強化されることでしょう。