日本社会の「おひとりさま」化とドラマの変遷:多様な生き方を描く新たな潮流

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「人口統計資料集(2023年改訂版)」によると、2020年(令和2年)の50歳時未婚割合、いわゆる「生涯未婚率」は男性28.25%、女性17.81%に達しました。博報堂キャリジョ研プラスは、これらの社人研データに基づき、「2050年には男性の約3.6人に1人、女性の約2.7人に1人が生涯独身となる」と推計しており、「おひとりさま」はもはや珍しい存在ではなくなると見られています。このような社会の変化を背景に、従来の恋愛中心のドラマとは異なる、一人で生きることに寄り添う作品が増加傾向にあります。特に、今年NHK総合で放送された『ひとりでしにたい』と『しあわせは食べて寝て待て』は、現代の日本社会における独身者のリアルな心情や生き方を深く掘り下げた点で注目を集めました。

『ひとりでしにたい』の主人公・山口鳴海が一人で生きる姿を描いたビジュアルイメージ『ひとりでしにたい』の主人公・山口鳴海が一人で生きる姿を描いたビジュアルイメージ

『ひとりでしにたい』:39歳独身女性の“終活コメディ”が問いかけるもの

2025年6月から全6回で放送されたNHK総合のドラマ『ひとりでしにたい』は、カレー沢薫氏による同名漫画を原作とし、39歳の未婚女性・山口鳴海(綾瀬はるか)を主人公に据えた終活コメディです。推し活に没頭し独身生活を満喫していた鳴海は、伯母・光子(山口紗弥加)の孤独死を経験し、自身の将来に対する漠然とした不安を抱くようになります。この出来事をきっかけに、鳴海は今後の人生の生き方、さらには「死に方」までを見つめ直すことになります。8月2日に放送された最終話(第6話)は、多くの視聴者の間で賛否両論を巻き起こし、その結末が現代の結婚観や生き方に鋭い問いを投げかけました。

ドラマ『ひとりでしにたい』の原作コミック第1巻の表紙(著:カレー沢薫)ドラマ『ひとりでしにたい』の原作コミック第1巻の表紙(著:カレー沢薫)

賛否両論の最終回が浮き彫りにする現代の結婚観と自立

最終話で同僚の那須田優弥(佐野勇斗)から告白された鳴海は、一度は断ろうとします。しかし、那須田は加齢による身体的変化を挙げ、「今よりもっと疲れやすく、物忘れも多く、体調も崩しやすくなる。そういう時に手を貸してくれる若い人間がそばにいたら心強く思いませんか?」と問いかけます。さらに、「山口さんが45歳の時、俺はまだ20代なんですよ」「彼氏という名ばかりの役職さえもらえれば、使えるだけ使ってもらってもいい」と具体的な“好条件”を提示し、鳴海は那須田に「利用価値あり」と判断し、交際をスタートさせます。

その後、鳴海は那須田と共に実家での食事会に参加します。しかし、「いい年こいて」結婚も出産もせず、さらには親の介護まで全うしようとしないことを弟・聡(小関裕太)から責められ、場の雰囲気は一触即発の状態に。那須田の機転の利いたフォローでその場はなんとか収まりましたが、この出来事が鳴海の心境に大きな変化をもたらします。翌日、鳴海は那須田に感謝を伝えつつも、きっぱりと別れを告げます。「私はこれからも、私らしく生きていきたい。だから、別れよう。私はひとりで生きて、ひとりでしにたい」という鳴海の言葉は、従来の社会が求める「幸福な人生」の枠組みから逸脱し、自分自身の価値観と向き合う現代の独身者の姿を象徴していました。

まとめ:多様な生き方を尊重する社会へ

『ひとりでしにたい』の最終回が示すように、現代の日本では、結婚や家族形成といった従来のライフパスだけでなく、一人で生きる選択もまた尊重されるべき多様な生き方の一つとして認識され始めています。ドラマは、生涯独身を選ぶ人々が直面する社会的なプレッシャー、将来への不安、そしてそれらを乗り越えて「自分らしく」生きようとする姿をリアルに描きました。このような作品がNHKで放送されること自体が、日本社会が「おひとりさま」という属性を単なるマイノリティではなく、現代社会の重要な一部として捉え始めていることの表れと言えるでしょう。今後も、固定観念にとらわれず、様々な生き方や幸福の形を肯定的に描くコンテンツが増えることが期待されます。

参考文献

  • 国立社会保障・人口問題研究所:「人口統計資料集(2023年改訂版)」
  • 博報堂キャリジョ研プラス:プレスリリース「2050年には男性の約3.6人に1人、女性の約2.7人に1人が生涯独身になる」
  • NHKドラマ『ひとりでしにたい』公式サイト