プーチン大統領、流暢な英語を披露?外交の裏側にある「通訳戦略」の真実

米アラスカ州で行われた米ロ首脳会談で、ロシアのプーチン大統領が最後に発した英語の言葉は、多くの注目を集めました。トランプ米大統領の示唆に対し「次はモスクワで」と通訳なしで応じた瞬間は、プーチン大統領の語学力、特に英語力に関する世間の認識と実際のギャップを浮き彫りにしています。本稿では、プーチン大統領の知られざる英語のスキルと、彼が公式の場で通訳を介してコミュニケーションを取る外交上の戦略について深く掘り下げていきます。

プーチン大統領の驚くべき語学力:ドイツ語から英語まで

プーチン大統領はドイツ語に非常に堪能であることで知られています。冷戦期には旧ソ連国家保安委員会(KGB)の将校として東ドイツ(当時)のドレスデンに赴任しており、ドイツのメルケル元首相との会談で互いにドイツ語を話していたのは有名な話です。

ロシア大統領府の発表によれば、プーチン大統領は流暢な英語も操るとされています。ロシア紙イズベスチヤが2017年に報じたところでは、大統領府はプーチン氏が英語を「ほぼ完全に」理解しており、時には通訳の誤りを正すことさえあると明かしています。当時のペスコフ大統領報道官は、プーチン氏が「急ぎの場」では英語で話すことが多いものの、交渉や公式会談の場では「もちろん通訳を介して意思疎通を行う」と説明しており、その理由が外交上の戦略にあることを示唆しています。

アラスカ州での米ロ首脳会談後、記者会見で英語を話すプーチン大統領アラスカ州での米ロ首脳会談後、記者会見で英語を話すプーチン大統領

外交戦略としての「通訳」:駆け引きの余地

ハイレベルな国際協議の場で通訳を使用することは、単に言語の壁を越えるためだけではありません。指導者にとって、それは重要な「駆け引きの余地」を生み出す外交戦略の一環となることがあります。通訳を介することで、発言のニュアンスを調整したり、反応までの時間を稼いだり、あるいは意図的に理解できないふりをして相手の真意を探ったりすることが可能になるためです。

実際、今回のトランプ大統領との会談前、記者団から戦争に関する厳しい英語の質問が飛んだ際、プーチン大統領は理解できないか、聞こえていないかのような様子を見せました。どの質問にも答えず、困惑した表情を見せるばかりで、「民間人の殺害をやめる」かと問われた際にも、聞き取れなかったかのような仕草を見せました。これは、彼の英語力をもってすれば理解できたはずの質問に対し、あえて直接的な回答を避けるための戦略的な振る舞いだったと解釈できます。

公の場で見せたプーチン氏の英語披露の瞬間

交渉の場以外では、プーチン大統領が英語力を披露したケースは少なくありません。彼の語学力が単なる噂ではないことを裏付ける具体的な例がいくつか存在します。

2008年には、ジョージア(グルジア)での紛争を巡りCNNの単独インタビューに応じた際、質問の一部に英語で答える場面がありました。また、2013年には、ロシア中部エカテリンブルクへ20年万国博覧会を誘致する計画を発表するため、カメラの前でかなり長く英語で発言し、「これは最優先の国家的プロジェクトになる」と語り、その流暢さで聴衆を驚かせました。

しかし、プーチン氏が英語力を披露したおそらく最も有名な例は、2010年にサンクトペテルブルクで開催されたチャリティーイベントでしょう。この場で彼は、ジャズのスタンダードナンバー「ブルーベリー・ヒル」を歌い上げました。歌詞の一部でつまずく場面もあったものの、ケビン・コスナー氏、ゴールディ・ホーン氏、カート・ラッセル氏といったハリウッドの著名人たちが客席でこの珍しいパフォーマンスを目撃し、大きな話題となりました。

結論

プーチン大統領は、ドイツ語に加えて英語にも高い能力を持つことが、これまでの様々な事例や大統領府の見解から明らかです。しかし、彼が国際的なハイレベル協議の場で通訳を積極的に利用するのは、単に言語の壁を越えるためだけではなく、むしろ外交上の高度な戦略、すなわち駆け引きの余地を創出するためであると言えます。

彼の言語運用能力は、国際政治における彼の立ち位置や、交渉術の一端を物語っています。今後も、プーチン大統領がどのような場面で、どのような言語を選択し、それをいかに外交に活用していくのか、国際社会の注目が集まることでしょう。


参考文献

  • CNN.co.jp
  • Yahoo!ニュース
  • ロシア紙イズベスチヤ
  • ロシア大統領府