北海道美瑛町では、例年観光客で賑わう夏季シーズンに異変が起きています。特に7月上旬、交流サイト(SNS)上で「大災害が発生する」という根拠のない噂が拡散された影響で、海外からの旅行控えが顕著に見られました。この状況は、同町の観光業だけでなく、地元の農業にも波紋を広げています。
SNSデマが引き起こした観光客の減少
パッチワークの丘で知られる美瑛町では、7月に入ると観光客や大型バスの姿が例年に比べて明らかに少なくなりました。同町で46ヘクタールの畑作を営む大西智貴さん(40)は、「いつものように駐車場からバスや観光客があふれ出すことはなく、特に大型バスが少ないためトラクターの通行がスムーズだった」と語ります。コロナ禍が明けて以降、訪日外国人(インバウンド)の急増による農機移動の妨げなど、「オーバーツーリズム」の被害に悩まされてきた地元農家にとって、一時的な混雑緩和をもたらした形です。
美瑛町は「セブンスターの木」や「白金青い池」など、広大な丘陵地帯に数々の観光スポットを有し、夏季は黄金色の小麦畑、ジャガイモの花、ラベンダーなどで地域がパッチワークのように色鮮やかに染まるため、多くの観光客が殺到します。町観光協会によると、2024年に同町を訪れた観光客は前年比30万人増の268万6300人に上るほどの人気を誇ります。
しかし、今年の7月は状況が一変しました。SNS用の写真を撮るために道路上でポーズを取る人はほとんど見られず、大型バスの縦列駐車もなくなりました。美瑛町観光協会は、この現象を「大災害の噂により、アジア圏からの旅行客が減少したため」と分析しています。特にSNSの利用率が高い韓国人観光客の場合、「インフルエンサーと同じ写真を撮ろうと、観光スポットが過密になりやすい」傾向があるものの、デマの影響でインバウンドが減少。昨年からの警備員配置やバス用レーンの増設、警察による臨時駐車禁止措置といったオーバーツーリズム対策も相まって、農業地帯の混雑緩和に繋がりました。
美瑛町にて、例年より観光客や大型バスの姿が少ない畑の風景。SNSのデマが影響し、2024年7月上旬の観光客減少が顕著に見られる。
観光回復とマナー遵守への呼びかけ
幸いなことに、8月に入ってからはインバウンドが徐々に回復傾向にあります。お盆の連休にかけてさらなる増加が見込まれる一方で、新たな問題も浮上しています。駐車禁止エリアでの路上駐車をするレンタカーが目立つようになり、農業への影響が懸念されています。美瑛町では麦の刈り取り後もジャガイモの収穫など農作業が続くため、地域住民と観光客との共存が引き続き大きな課題となっています。
JAびえい営農畜産部は、「自転車で畑に立ち入る観光客を見かけた。培土が崩れると芋が製品にならなくなってしまう」と指摘し、美瑛町観光協会と同様に観光ルールの厳守を強く呼びかけています。美瑛の美しい景観が農業によって育まれていることを理解し、農作業の妨げにならないよう、観光客一人ひとりのマナー意識が求められています。
美瑛町の観光客減少は、SNS上の誤情報が経済活動に与える影響の大きさを浮き彫りにしました。同時に、オーバーツーリズムの問題と、その対策、そして観光客と地元住民が共存するためのマナー遵守の重要性を改めて示しています。持続可能な観光地として美瑛が発展していくためには、こうした課題に対する継続的な取り組みと、訪問者の協力が不可欠です。
参考文献:
- 日本農業新聞