コクヨ「大人のやる気ペン」なぜ売れる? 継続困難な学習モチベーションを支える秘密

近年、大人の自己学習や資格取得への意欲が高まる中、その継続に課題を抱える人々は少なくありません。そうした現代社会のニーズに応える形で、コクヨから発売された「大人のやる気ペン」が大きな注目を集めています。2019年に発売され累計販売台数5万台を突破した子ども向けの「しゅくだいやる気ペン」の成功を受け開発された本製品は、2025年5月の一般発売に先駆け、クラウドファンディングで3600人以上から約3500万円の支援を集め、さらには「文房具総選挙2025」で大賞を受賞するなど、その人気の高さを証明しています。約1万円という価格設定ながら、なぜこれほど多くの大人に支持されているのでしょうか。その背景には、ユーザーの深いインサイトを捉えた製品開発がありました。

「やる気」を可視化し、大人の学習を継続させる革新的な仕組み

「大人のやる気ペン」は、専用のペンを普段使いの筆記具に取り付けて学習することで、その学習量を専用アプリで「見える化」する画期的なツールです。可視化された学習量に基づき、ユーザーには定期的に叱咤激励のメッセージが届いたり、すごろく形式のゲームを進めながらアバターの着せ替えを楽しめたりといった工夫が凝らされています。さらに、同じ「大人のやる気ペン」を使う仲間たちの存在を感じられるソーシャルな要素も盛り込まれており、これら一連の仕組みが日々の学習モチベーションの維持に大きく貢献します。

コクヨ「大人のやる気ペン」で学習モチベーションを高める様子コクヨ「大人のやる気ペン」で学習モチベーションを高める様子

この製品が開発されるに至った背景には、コクヨ イノベーションセンター やる気ペングループのグループリーダーである中井信彦氏の緻密な市場分析とユーザー理解がありました。

「大人が子ども用を使っていた」驚きの発見が開発の原点

「大人のやる気ペン」の開発が本格的に始まったのは、「しゅくだいやる気ペン」の発売から約3年後のことでした。SNSやWebレビューで「大人がしゅくだいやる気ペンを使っている」という意外なコメントが散見されるようになったのがきっかけです。当初はジョーク交じりの投稿かと思われましたが、「資格勉強に使っている」といった具体的な声が増えたことで、コクヨは「本当に使っているのか?」と疑問を抱き、実際に子ども向け製品の利用者にインタビューを実施しました。

驚くべきことに、利用者の中には数パーセントの大人が含まれており、その約7割が資格勉強や自己学習に使用していることが判明しました。彼らの多くは難易度の高い資格試験に挑戦しており、「どうしても最初の10分ができない」「以前、資格勉強に挫折した」「誰も褒めてくれないし、怒ってもくれない。孤独感がつきまとう」といった、学習継続における切実な悩みを抱えていたのです。中井氏は、自身のがんばりだけでは学習を続けられないと感じている人々が「しゅくだいやる気ペン」にたどり着き、実際に製品のおかげで合格できたという声も聞かれたことから、子ども向けの製品でありながら、特定の大人層に製品の魅力が深く刺さっていることを確信しました。

仕事や資格勉強のモチベーションを上げるコクヨ「大人のやる気ペン」の本体とアプリ画面仕事や資格勉強のモチベーションを上げるコクヨ「大人のやる気ペン」の本体とアプリ画面

中井氏は、「商品開発において最も大事なのは、深く刺さる人がいるかどうか」だと語ります。事業として成功させるにはターゲットの広さも重要ですが、人々を幸せにすることに焦点を当てた場合、特定の人々に「とにかく深く刺さっている」ことが何よりも価値になる、という考えです。このインタビューを通じて、ターゲット層の解像度が飛躍的にクリアになったといいます。

ニッチながらも広がる市場ニーズ:大人の7割が学習を挫折

ターゲット層の明確化に加え、コクヨは市場ニーズの調査も行いました。1万人規模のアンケート調査を実施した結果、大人の26%が何らかの資格勉強に取り組んでいる一方で、そのうち71%が途中で挫折しているという実態が浮き彫りになりました。このデータは、表面上はニッチに見える「大人の学習継続」という課題が、実際には非常に広範なニーズを抱えていることを示唆していました。

こうした背景から、「資格試験の勉強に切実に取り組む層」を主要ターゲットとし、彼らが抱える「継続の壁」を打ち破るための製品として、「大人のやる気ペン」の開発が本格的に推進されたのです。

「大人のやる気ペン」の成功は、単なる文房具のヒットに留まらず、現代社会における大人の自己成長意欲と、それを阻む課題に対する深い洞察が、革新的なソリューションを生み出した好例と言えるでしょう。この製品は、多くの大人にとって、学習の孤独感と挫折感を乗り越え、目標達成へと導く新たなパートナーとなる可能性を秘めています。

Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/1cc2a4f00034e5a7d541de728a05b508ff321dbf