「撮り鉄」迷惑行為の根絶へ:大宮駅騒動から見えた趣味との向き合い方

2025年7月、埼玉県の大宮駅近くで未明にもかかわらず約300人もの鉄道ファン、通称「撮り鉄」が殺到し、その一部が車道に飛び出すなどの迷惑行為に及び、警察が出動する事態となりました。なぜ、一部の「撮り鉄」によるマナー違反は後を絶たないのでしょうか。鉄道写真の奥深さと、その裏に潜む問題について深掘りします。

大宮駅で何が起きたのか?~約300人の“撮り鉄”が殺到

2025年7月13日の午前3時頃、埼玉県さいたま市のJR大宮駅付近に、約300人もの鉄道ファンが集結しました。彼らの目的は、2010年に引退した中央線の車両201系の車庫への移送を撮影すること。列車が姿を現すと、「撮り鉄」たちのボルテージは最高潮に達しました。しかし、列車通過後には、車道へ飛び出す、クラクションを鳴らす車に対して逆切れするなど、目に余る迷惑行為が続出。最終的には警察官が駆けつける騒ぎへと発展したのです。このような「撮り鉄」によるマナー違反は度々問題となりますが、その背景には何があるのでしょうか。

大宮駅付近に殺到した多数の撮り鉄が列車の撮影を行う様子大宮駅付近に殺到した多数の撮り鉄が列車の撮影を行う様子

最高の「瞬間」を追い求めるプロの情熱

「撮り鉄」歴41年のベテラン、錦織整さん(51)は、大学職員として働きながら、最高の鉄道写真を求めて全国を飛び回っています。2018年に島根で撮影したという一枚について、錦織さんは「きれいにカーブして、海が入る一流のポイント」と語ります。最高のショットを収めるためには苦労もいとわない錦織さんは、過去にはトイレに行く間に目当ての電車が過ぎてしまった経験から、普段は食事を抜き、トイレを我慢して待つこともあると話します。

2017年には、北海道で「石北本線183系 大雪号」を撮影するために15万円もの費用を投じたと言います。錦織さんは「レンタカーに乗って、1カット15万円。安いもんです。迫力は現場でないと感じられない。生きているものを捕まえなければいけない」と、その情熱を明かします。列車の角度、光の具合、背景など、あらゆる要素を考慮し、最高の一瞬を切り取るための努力を惜しみません。

なぜ“撮り鉄”による迷惑行為は繰り返されるのか?

近年、「撮り鉄」による迷惑行為は社会問題として頻繁に取り上げられています。線路への立ち入り、フェンスなどの破壊、さらにはホームで三脚を広げて通行を妨げるなど、駅利用者や一般市民に多大な迷惑をかける非常識な行動が後を絶ちません。さいたま市で廃車となった車両、通称「葬式鉄」を撮影しようとファンが集まった際にも同様の騒動が発生しました。

これに対し、錦織さんは警鐘を鳴らします。「電車は『ものを時間通りに安全に運ぶ』存在。それを妨げる行為は、社会生活に影響するだけでなく、人命にも関わる可能性がある。趣味はあくまでその範囲内で楽しむべきで、一部の人の行いで全体が悪く見られてしまうのは残念だ」と語ります。

では、なぜこのような迷惑行為がなくならないのでしょうか。その背景として、錦織さんが挙げるのが「承認欲求の高まり」です。SNSの普及により、「より注目される写真を撮りたい」という競争意識が強まり、禁止された場所に立ち入ったり、限られた撮影ポイントを巡ってトラブルが発生するケースが増えているといいます。

錦織さんは、目に余る行為を見かけた際には「古参の撮り鉄」として、注意をすることもあると話します。「広く趣味を理解してもらうためには、あくまでも公共の場で『撮らせてもらっている』という気持ちを忘れず、マナーを守って楽しむことが大切だ」と強調します。

マナー厳守が趣味の未来を築く

一部の「撮り鉄」による迷惑行為は、鉄道写真という素晴らしい趣味全体のイメージを損なうだけでなく、社会全体の安全にも影響を及ぼす可能性があります。錦織さんの言葉が示すように、個々人が公共の場におけるマナーと責任を自覚し、「撮らせてもらっている」という謙虚な気持ちを持つことが極めて重要です。この問題が根絶され、全ての鉄道ファンがルールを守り、安全かつ健全に趣味を楽しむことができる未来が築かれることを願います。それは、鉄道文化の発展にも繋がる道でしょう。


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