北海道ニセコ地域:外国人労働者向け住宅計画、治安懸念で異例の否決へ。住宅不足深刻化

世界有数のスキーリゾート地として知られる北海道ニセコ地域の一角、倶知安町で、主に外国人労働者を対象とした大規模集合住宅の建設計画が持ち上がった。しかし、この計画は町の農業委員会によって全会一致で否決されるという異例の事態に至った。町側は、地域住民からの「治安悪化への懸念」を最大の理由として挙げており、この開発計画の否決は極めて珍しい。冬季の急激な人口増加に伴う深刻な住宅不足に直面するニセコ地域において、今回の決定が今後の外国人労働者の受け入れ体制や地域経済にどのような影響を及ぼすのか、その動向に注目が集まっている。

倶知安町で浮上した外国人労働者向け集合住宅計画

今回、否決された集合住宅建設計画は、JR倶知安駅の南東約700メートルに位置する市街地に近い約2.7ヘクタールの「第3種農地」に、2~3階建ての共同住宅30棟を建設するというものだった。シンガポールの投資会社が保有する同町の不動産会社「ニセード・サービシーズ」が開発を計画しており、ニセコのスキー場や宿泊施設で働く外国人従業員が主な入居者として想定されていた。この計画が実現すれば、想定される居住者数は約1200人にも上り、これは倶知安町の人口のおよそ1割に相当する規模となる見込みであった。事業者は今年7月、農地からの転用を町の農業委員会に申請し、9月頃の着工を目指し建設会社との契約も締結していたという。

北海道倶知安町に計画された外国人労働者向け集合住宅の建設予定地。遠景にはニセコ地域の象徴である羊蹄山が見える。北海道倶知安町に計画された外国人労働者向け集合住宅の建設予定地。遠景にはニセコ地域の象徴である羊蹄山が見える。

住民の「治安悪化」懸念と農業委員会の否決判断

町の農業委員会によると、今回の計画は周辺農地への影響や事業の実現可能性といった農地転用の条件をすべて満たしていた。しかし、近隣住民からは「治安悪化への懸念」が強く表明され、262人分の署名と要望書が町と農業委員会に提出された。要望書の中には、「住民の幸福という本質に立ち返り、拙速な開発ではなく、慎重で合意形成を重視した判断をしていただきたい」との記述もあり、住民の不安と慎重な姿勢が浮き彫りになった。

この住民の要望を踏まえ、委員会は7月31日の定例総会で本計画について議論。その結果、農地転用に反対する意見書を許認可権限を持つ北海道知事に送付することを全会一致で議決した。関係者によれば、農地転用の最終的な許可・不許可の判断は10月以降になる見通しだという。

開発会社の「想定外」の声と住宅確保の現実

計画開発元のニセード・サービシーズのシニアプロジェクトマネジャー、近藤邦裕氏は今回の否決に対し、「想定外の事態」と驚きを隠せない様子だ。同氏によると、昨年12月と今年5月には住民説明会を開催し、計画への理解を求めてきたが、その場で住民から治安悪化を懸念する声が少なからず上がっていたという。それでも、委員会の採決で全会一致の否決になるとは予想していなかったと述べている。

仮に知事による認可が下りなければ、この計画は白紙に戻る可能性が高い。近藤氏は、「冬季のハイシーズンには、リゾートエリアで働く人々の住宅確保が何よりも困難になる。ただでさえ圧倒的に不足している現状をどのように解消するのか。感情論ではなく、現実を冷静に見つめてほしい」と強く訴えている。ニセコ地域では、インバウンド需要の高まりとともに外国人労働者の必要性が増す一方で、彼らが居住できる適切な住宅の確保が喫緊の課題となっており、今回の否決は問題解決の道をさらに複雑にしている。

住宅不足と地域社会の調和

今回の倶知安町における外国人労働者向け集合住宅計画の否決は、ニセコ地域の抱える複雑な課題を浮き彫りにした。地域経済の発展を支える外国人労働者の受け入れと、地元住民の生活環境や治安への懸念という二律背背反する要素の間で、適切なバランスを見出すことの難しさを示している。住宅不足は冬季のニセコ地域にとって深刻な問題であり、外国人労働者が安定して働ける環境がなければ、リゾートとしての魅力やサービス品質の維持にも影響を及ぼしかねない。今後、地域住民の理解を得ながら、どのようにしてこの住宅問題を解決し、持続可能な地域社会を構築していくのか、倶知安町と関係各所の動向が引き続き注視される。

出典:
Yahoo!ニュース