外観ノーマルで400馬力!HKSスーパーチャージャーUCF30セルシオの真実

見た目は完全なノーマル、しかしその心臓部にはHKS GTスーパーチャージャーが搭載され、圧倒的なパワーを秘めたUCF30型セルシオ。この一台が、街中から高速道路、さらには鈴鹿サーキットのフルコースまでをも軽々と駆け抜けるその実力とは一体どのようなものなのか。普段使いとスポーツ走行を両立する「羊の皮を被った狼」とも言えるこの高性能セダンの秘密に迫ります。

「羊の皮を被った狼」:隠れたる高性能セダンの誕生

トヨタが世界に誇る高級セダン、セルシオ。その3代目となるUCF30型は、静粛性、乗り心地、そして内外装の質感において高い評価を受けてきました。しかし、今回紹介する一台は、オーナーの「通勤で高速道路を走る際、欧州の高級車、例えばメルセデスベンツやBMWに負けたくない」という熱い要望から、秘めたる高性能を手に入れることになりました。

この大胆なパワーアップを担ったのは、HKS GTスーパーチャージャーによるボルトオン過給機チューンを得意とする「エスプリ」です。代表の前川氏は、このセルシオのチューニングにおいて、NA(自然吸気)メカチューンでは車格に合わないこと、またボルトオンターボでは排気系まで手を加える必要がありコストとパフォーマンスのバランスが取れないことから、GTスーパーチャージャーが唯一無二の選択肢であったと語ります。

ボルトオン過給機:HKS GTスーパーチャージャーの選択肢

このUCF30セルシオのエンジン本体は、ヘッドも腰下もノーマル状態を保ち、圧縮比10.5のままボルトオンスーパーチャージャー化が施されています。インジェクターは350ccへと容量アップされ、前置きインタークーラーにはGT-R純正が巧みに流用されています。前川代表によれば、「430ps程度の出力であれば、この容量で十分対応可能」とのことです。

ワンオフブラケットを介して装着されたHKS GTS8550スーパーチャージャーは、その存在感を放ちつつも、オーナーの「吸気音が大きくなるのはNG」というリクエストに応え、GT-R純正エアクリーナーボックスが加工流用されています。これにより、エンジンルームを開けない限りはノーマルと見分けがつかないという、見事なまでのカモフラージュが実現されています。

緻密な制御と圧倒的なパワー:F-CON VプロによるLジェトロ方式

燃調と点火時期の制御は、HKS F-CON Vプロが担当しています。オーナーが日常的に通勤などで車を使用するため、環境に左右されない安定した制御を追求し、エアフロを残したLジェトロ方式が採用されました。

トムス製320km/hフルスケールメーターを装備したUCF30セルシオの運転席。トムス製320km/hフルスケールメーターを装備したUCF30セルシオの運転席。

エンジンルームに装着されたHKS GTS8550スーパーチャージャーと加工流用されたGT-R純正エアクリーナーボックス。エンジンルームに装着されたHKS GTS8550スーパーチャージャーと加工流用されたGT-R純正エアクリーナーボックス。

HKSスーパーチャージャーシステムを搭載したUCF30セルシオのエンジン部アップ。HKSスーパーチャージャーシステムを搭載したUCF30セルシオのエンジン部アップ。

燃料と点火時期を制御するF-CON Vプロのユニット。燃料と点火時期を制御するF-CON Vプロのユニット。

パワーグラフからは、このチューンドの質の高さが明確に見て取れます。遠心式スーパーチャージャーらしい、高回転域まで美しい伸びを見せるパワーカーブ。そして、特筆すべきはそのフラットなトルク曲線です。100km/h前後(約2000rpm)で既に35kgmを発生し、6000rpmオーバーまで50kgm以上を維持するという、日常域から高速域まで非常に扱いやすい特性を示しています。

HKSスーパーチャージャー装着UCF30セルシオのパワーグラフ。高回転域まで伸びる出力とフラットなトルク曲線を示す。HKSスーパーチャージャー装着UCF30セルシオのパワーグラフ。高回転域まで伸びる出力とフラットなトルク曲線を示す。

走りの質を高める足回り&補強

排気系は、フロントパイプとセンターパイプをトムス製に交換。リアピースは、純正の外観を保つため、センターパイプとの接続部を差し込み式とすることで純正をセットしています。これにより、オーナーの「見た目はノーマルに」という強い希望が徹底されています。さらに、TRDサスメンバーブレースの装着により、フロア周辺の剛性アップも図られ、走行安定性が向上しています。

サスペンションには、クァンタム車高調が採用され、フロントにハイパコ製14.3kg/mm、リアにメイン8kg/mmとスイフト製ヘルパー4kg/mmのスプリングが組み合わされています。スタビライザーはTRD製の強化品に交換され、よりシャープなハンドリングを実現。ブレーキに関しては、パッドのみセミメタル系のエンドレスMX72に強化されています。

トムス製フロント&センターパイプとTRDサスメンバーブレースが装着されたUCF30セルシオの車体下部。トムス製フロント&センターパイプとTRDサスメンバーブレースが装着されたUCF30セルシオの車体下部。

クァンタム車高調と強化スプリングが組み合わされたUCF30セルシオのサスペンション。クァンタム車高調と強化スプリングが組み合わされたUCF30セルシオのサスペンション。

オーナーの「見た目ノーマル」という思想は徹底されており、ホイールもUSF30純正のまま。タイヤは前後245/45-18サイズのポテンザRE050Aが装着され、高性能をさりげなく支えています。コクピットも基本的にノーマルを維持し、追加メーターは一切見当たりません。唯一の変更点は、スピードメーターがトムス製320km/hフルスケールタイプに交換されている程度です。また、タコメーター内の目障りなエンジンチェックランプは、HKSステッカーで巧妙にカモフラージュされています。

純正USF30ホイールとポテンザRE050Aタイヤを装着したUCF30セルシオのタイヤ・ホイール部。純正USF30ホイールとポテンザRE050Aタイヤを装着したUCF30セルシオのタイヤ・ホイール部。

タコメーター内のエンジンチェックランプをHKSステッカーでカモフラージュしたUCF30セルシオのインストルメントパネル。タコメーター内のエンジンチェックランプをHKSステッカーでカモフラージュしたUCF30セルシオのインストルメントパネル。

見た目とのギャップ:鈴鹿サーキットでの実力検証

このスーパーチャージャー仕様のUCF30セルシオを、鈴鹿サーキットのフルコースで実際に試乗する機会を得ました。第一印象は、「とにかく楽しい」の一言に尽きます。1〜2コーナーを抜け、S字を右に左にと切り返しながらまず気づかされたのは、「想像以上に曲がってくれる」という点でした。足回りのセッティングは完全にストリート仕様とのことですが、ロールが適度に抑えられ、必要以上にボディが深く沈み込むこともありません。これならば、高速道路でのハイペースな走行も全く不安なくこなせるでしょう。

エンジンは、過給機付きであることを全く感じさせない、非常にスムーズなフィーリングです。しかし、アクセルオンと同時に立ち上がるトルクは予想以上に大きく、デグナーやヘアピンからの立ち上がりでは、普段通りのアクセルワークのつもりでもテールが「ズリッ…」と流れ、VSC(横滑り防止装置)の介入を促すほどでした。バックストレートはかなりの上り勾配ですが、加速感に鈍りはなく、130R手前の200m看板でメーター読み210キロを確認しました。このパワーとトルクの出方は、スポーツ走行においても非常に魅力的です。

鈴鹿サーキットのコースを走行する、HKSスーパーチャージャー仕様のUCF30セルシオ。鈴鹿サーキットのコースを走行する、HKSスーパーチャージャー仕様のUCF30セルシオ。

ただし、パッドのみ交換されたブレーキは、2周目の1コーナー進入で明らかにペダルストロークが増え、3周目の1コーナーでは「減速しきれないかも!?」と一瞬不安を感じるほどでした。完全なストリート仕様で車重が2トンもあることを考慮すれば、サーキットの過酷な連続走行においては、やはり限界が見えたと言えるでしょう。

ストリートとサーキットの融合:究極のセルシオチューンド

UCF30セルシオにとって、鈴鹿サーキットのフルコースは極めて過酷な状況であったと推察されますが、その逆説的に、このチューンドがストリート走行において、動力性能と運動性能の両面で極めて高いレベルでバランスが取れていることを強く印象付けられました。日常の足として快適性を損なわず、いざとなれば欧州の高級スポーツセダンに引けを取らない加速力と、意のままに操れる走行性能を発揮する。まさに、オーナーの理想を具現化した、究極の「隠れ高性能セダン」と言えるでしょう。この一台は、高級セダンにおけるチューニングの新たな可能性を示しています。


参考文献

  • Motor-Fan (2025年8月18日). 外観はフルノーマル、しかし中身はHKS GTスーパーチャージャーで武装したUCF30セルシオ。街も高速も、そして鈴鹿のフルコースさえも軽やかに駆け抜ける、その実力に迫った。Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/articles/d3147dc8bc7cd362a31d20af87320a8ba3a06948
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