中国南西部の四川省とチベット自治区の境界に建設中の葉巴灘水力発電所で、当初予定されていたドイツ製の小型産業用コンピュータ(PLC)が、急遽、中国国産のシステムに置き換えられたことが明らかになりました。この動きは、中国が国家安全保障上の配慮から、重要インフラにおける外国製技術への依存を減らし、中国 PLC 国産化
を加速させている明確な兆候とみられています。香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」が報じたこの決定は、同国の技術自立
への強い意志を浮き彫りにしています。
葉巴灘水力発電所とPLC国産化の経緯
葉巴灘水力発電所は、三峡ダムと白河灘ダムに次ぐ中国第3位、世界第4位の規模を誇る巨大プロジェクトであり、その戦略的重要性が強調されています。これまで葉巴灘水力発電所 PLC
には、ドイツのシーメンス
社やフランスのシュナイダー・エレクトリック
社製のものが使用されるとされていました。しかし最近、中国科学院計算技術研究所から派生した国内大手「龍芯テクノロジー
社」のPLCを緊急採用することが決定されました。この突然の変更は、現代のデジタル環境における重要インフラ
の脆弱性に対する懸念の高まりを反映しています。
中国の習近平国家主席、重要インフラにおける西側製PLC排除と技術自立化を推進
サイバーセキュリティリスクとスタックスネットの教訓
中国政府は、産業制御システムの脆弱性、特に海外製PLCが外部からのコンピューターウイルス
によるサイバー攻撃
を受け、稼働停止に追い込まれる危険性を深く懸念しています。過去には、スタックスネット
(Stuxnet)というマルウェアがイランの核施設にあるシーメンス製PLCを標的にした事例が知られています。これはPLCを通じて物理的破壊を引き起こした初の事例であり、産業用制御システム
のセキュリティリスクと脆弱性を象徴する歴史的な事件となりました。この教訓が、中国の国家安全保障
戦略に大きな影響を与えていることは間違いありません。
国家インフラの安全保障と技術自立への動き
中国が西側製PLC
を排除する動きを加速させる背景には、国家インフラ
の安全保障確保と、技術的な自立
を達成するという二重の要請があります。葉巴灘水力発電所は、標高約3000メートルに位置し、総設備容量は224万キロワット、最大ダム高さ217メートル、コンクリート打設総量251万立方メートルに達する壮大なプロジェクトです。これは中国の「第14次五カ年計画
」における重大プロジェクトの一つに位置づけられており、その第1期発電ユニットは2025年末に稼働する予定です。このような基幹インフラにおいて、サプライチェーンの強靭化と国内技術の採用を推進することは、国家戦略の核心と見なされています。
中国の主要インフラにおけるPLC国産化の加速は、国家安全保障の強化と技術的自給自足を目指すという中国の明確な戦略を示しています。これは単なる個別のプロジェクト変更にとどまらず、国際的なテクノロジーサプライチェーン
と地政学的バランスに大きな影響を与える可能性を秘めた、重要な動きであると言えるでしょう。