2018年1月、滋賀県で起きた衝撃的な母親殺害事件。当時31歳の看護学生が実の母親を殺害・遺棄した背景には、9年に及ぶ浪人生活と、苛烈な「教育虐待」の存在がありました。なぜ娘は「モンスター」を倒したと語るまでに追い詰められたのか。事件の核心に迫ります。
教育虐待によって追い詰められた親子の関係を示すイメージ
国立医学部への「執拗な進路強制」と苦難の9浪
被告である桐生のぞみ(当時31歳)は、母親のしのぶさん(当時58歳)から国立大学医学部への進学を強く強要されていました。度重なる受験失敗の後も、のぞみは実に9年もの間浪人生活を送ることを余儀なくされます。調査報告には「母のサポートを受けながら大学の医学部を受験するも失敗。その後9年間にわたり浪人生活を送り、4年前に滋賀医科大学医学部看護学科へ入学」と記されており、その過酷な道のりが浮き彫りになります。しかし、母親は娘が看護師になることすら認めず、助産師になるよう執拗に命じ続けました。のぞみは、次第に精神的に追い詰められていきました。
エスカレートする精神的圧迫と「殺意」の芽生え
事件の直前には、母親から娘へLINEで「ウザい!死んでくれ!死ね!」といった激しい罵倒や、「どうせ茶番だろ。助産師の国家試験が終われば、あんたは間違いなく裏切る」といったメッセージが繰り返されていました。これらの常軌を逸した言動は、のぞみの心に初めて「殺意」を芽生えさせることになります。
さらに、事件の数ヶ月前には、のぞみがスマートフォンを所持していたことを知った母親が、そのスマホを取り上げて自宅の庭石で叩き壊すという出来事がありました。母親はその後、のぞみに靴下のまま土下座を強要し、その屈辱的な様子を自ら撮影したといいます。のぞみは「この一件で、のぞみの中に初めて母への殺意が芽生える」と後に語っており、度重なる支配と屈辱、そして進路に対する執拗な強制が、娘を極限状態へと追い込んでいったことが伺えます。
深刻な「教育虐待」が招いた悲劇の連鎖
この事件は、単なる親子間の争いでは片付けられない、深刻な「教育虐待」が引き起こした悲劇として注目されています。子供の将来を願う親心が行き過ぎ、個人の意思や尊厳を無視した強制へと変質した時、その関係性は大きく歪みます。のぞみが「モンスターを倒した」と表現したように、彼女の心の中で母親は最早、支配と苦痛の象徴となっていたのでしょう。親が子供の人生を支配しようとすることで、最終的には取り返しのつかない破滅へと繋がりかねない、その恐ろしさを改めて浮き彫りにしています。
結論
滋賀県で発生したこの母親殺害事件は、子供の人生に過度に干渉し、精神的に追い詰める「教育虐待」がいかに深刻な問題であるかを私たちに突きつけます。才能や可能性を伸ばすどころか、自己肯定感を奪い、絶望へと導くこうした支配的な教育は、計り知れない悲劇を生む可能性があります。健全な親子関係とは何か、子供の個性を尊重することの重要性を改めて深く問いかける事件です。