自民・公明両党が歴史的な大敗を喫した参院選後、日本政府と国会は「いばらの道」に直面している。野党が衆参両院で多数を占める今、法案や予算案の円滑な通過は極めて困難となり、自民党内からは「下野論」まで浮上する事態となった。このような政治情勢の中、日本の財政を司る財務省は、二つの巨大な「爆弾」を抱え、秋の臨時国会を迎えようとしている。一つは「消費減税」の圧力、もう一つは再燃する「森友問題」である。
参院選大敗後の自民・公明:国会運営の「いばらの道」
先の参院選で与党が喫した大敗は、日本の国会運営に深刻な影響を与えている。もはや野党の主張を無視して法案や予算案を成立させることは不可能に近く、政府・与党はこれまで以上に野党との妥協を強いられることとなるだろう。この厳しい状況は、石破茂首相(当時)が「いばらの道」と評した通り、現政権にとって前例のない試練となる。自民党内からも「もはや下野しかない」といった諦めにも似た声が上がるほど、与党の求心力は低下しつつある。
財政規律派の守護神と呼ばれた自民党の森山裕幹事長
財務省の「野党対策」シフトと財政規律への脅威
このような政治的逆風の中、財務省は秋の臨時国会に備え、異例の人事配置を行った。社会保障分野や税制に精通した新川浩嗣事務次官(昭和62年、旧大蔵省入省)、宇波弘貴主計局長(平成元年、同)、青木孝徳主税局長(同)、坂本基官房長(3年、同)をいずれも留任させたのは、野党からの厳しい追及に対応するための「野党対策」シフトである。しかし、「財政規律派の守護神」と称された森山裕幹事長の影響力が失われた今、財務省が最も恐れるのは、衆参多数派となった野党が「消費減税」を大合唱することだ。省幹部からは「本当にそれでこの国が持つのか。現実問題として考えてほしい」と悲鳴にも似た声が上がるものの、ポピュリズムの波に呑み込まれつつあるのが現状である。
再燃する「森友問題」:財務省内部に潜むもう一つの「爆弾」
秋の臨時国会に向けて財務省が抱えるもう一つの「爆弾」は、同省始まって以来の不祥事として社会を揺るがせた「森友問題」である。森友学園への国有地売却を巡る公文書改竄問題以降、財務省は全体で17万ページ以上に及ぶ関連文書を約2カ月おきに開示し続けている。理財局内には「森友文書チーム」が編成され、連日徹夜で開示対象の文書チェックや「黒塗り」の必要性について議論が重ねられている。この問題は依然として財務省にとって重い足かせとなっている。
森友問題対応の中核:井口理財局長の復帰と役割
森友問題の事後対応に深く関わった経験を買われ、今夏、沖縄振興開発金融公庫副理事長から財務省に呼び戻されたのが井口裕之理財局長(平成2年、旧大蔵省入省)である。彼は前代未聞の公文書改竄の中心人物であった中村稔関東信越国税局長(元年、同)の後任として、問題発覚後に理財局総務課長を務めていた。井口理財局長は、この秋の臨時国会で野党による森友問題に関する追及の矢面に立つことを前提に、その役割を期待されている。
森友問題で黒塗り文書を掲げる赤木俊夫氏妻の代理人弁護士
寺岡関税局長の人事:森友問題との深い関連性
一方、官房長への起用が取り沙汰されながら、関税局長に就任した寺岡光博氏(平成3年、旧大蔵省入省)の人事にも、森友問題との関連性を読み解く向きがある。オーソドックスな見方としては、同期の坂本氏が官房長に留任したため、寺岡氏を関税局長に昇格させ、将来的に内政全般を統括し各省庁の司令塔役を担う内閣官房副長官補へ充てるというものだ。しかし、財務省筋からは「この秋だけは寺岡氏を官房長に就かせられない事情があった」という声が聞かれる。そして、その事情こそが「森友問題」なのだという。
財務省を巡る厳しい展望
参院選後の国会運営の困難化、そして「消費減税」の圧力という財政規律上の脅威に加え、依然として影を落とす「森友問題」という内部の爆弾。財務省は、かつてないほど厳しい政治的、財政的局面を迎えている。幹部職員の異動や配置も、こうした多層的な課題への対応を色濃く反映しており、今後の日本の政治と財政の行方を左右する重要な動向として、その動きが注視されている。