北海道・知床半島に位置する羅臼岳で8月14日に発生したヒグマ襲撃事故は、登山中の男性の命を奪い、翌日には事故に関与したとみられるヒグマ3頭が駆除されるという痛ましい結果をもたらしました。この事件は、ヒグマとの共存を巡る長年の課題に加え、間もなく施行される鳥獣保護管理法の改正、そしてSNS上での活発な議論へと波及し、社会に大きな問いを投げかけています。
羅臼岳ヒグマ襲撃事件の経緯と検証
事故は標高1661メートルの羅臼岳において、標高550メートル付近を下山中の東京在住の26歳会社員男性に発生しました。男性の約200メートル後方を歩いていた友人が、助けを求める声を聞き駆けつけたところ、男性がヒグマに襲われている現場を目撃。友人はクマを追い払おうと試みたものの、男性は太ももから出血しながら藪の中へ引きずり込まれたといいます。男性は翌15日に遺体で発見され、同日、事故現場付近にいた親グマ1頭と子グマ2頭が地元のハンターによって駆除されました。その後、19日に行われたDND鑑定の結果、駆除された母グマが男性を襲った個体であると断定されました。
知床のヒグマ生息状況と過去の事案
羅臼岳は日本百名山にも選ばれる人気の登山スポットですが、知床は「世界的に見てもヒグマが高い密度で生息している場所」(知床財団公式HP)として知られ、およそ500頭のヒグマが生息すると言われています。今回の事故発生の2日前、12日にも羅臼岳では登山客がヒグマと至近距離で遭遇し、クマ撃退スプレーを噴射したものの、数分間にわたり付きまとわれたという事案が報告されていました。
羅臼岳の登山口に設置された、ヒグマ襲撃事故に伴う入山規制の閉鎖告知看板
鳥獣保護管理法改正とクマ被害増加の背景
近年、クマやイノシシが人間の生活圏に出没し、人身被害を引き起こすケースが増加傾向にあります。これに対応するため、今年9月1日には改正鳥獣保護管理法が施行されます。従来の法律では、市街地にクマが出没した場合、警察の許可が下りてからハンターが発砲し駆除していましたが、改正後は安全確保などの条件が認められれば、発砲の判断が市町村に委ねられることになります。これにより、より迅速な対応が可能となることが期待されています。
駆除を巡る社会的反響と役場の対応
クマ被害の危険性が高まる一方で、「駆除」を巡る議論もSNS上で活発化しています。昨年11月には秋田市内のスーパーに侵入したクマが男性従業員を襲い、駆除された際にも、「かわいそう」「人間と共存できる」といった批判的な声が一部で上がり、秋田市は駆除に抗議する電話を多数受けたことを明らかにしています。
今回の羅臼岳での駆除についても、斜里町役場は事故のあった週末から現在までに、電話やメール、手紙を合わせて約120件の意見を受けたと話しています。そのうち約7割は批判的な内容で、「子グマを殺す必要性があるのか」「クマの生息地に入っているにもかかわらず、身勝手な人間の判断」「行方不明者の捜索を含めて、関わった公務員の人件費の無駄づかい」といった意見が寄せられているとのことです。一方で、「(駆除は)当然の判断」「なぜ役場が苦情を受けなければいけないのか」といった擁護の声も寄せられています。
また、役場には「今後は羅臼岳の入山規制をするべき」といった指摘も届いているといいます。斜里町役場の担当者は、「報道に出ています通り、事故の前から人に付きまとうクマがいたことは事実で、それに対応もしたのですが、入山規制をすることもなく、日常のパトロールや啓発活動を行い、結果的に今回のような痛ましい事故が起こってしまったので、そこは強くご指摘をいただいています。現在は入山規制をしていますが、再開の目処はまだ立っていません」と説明しています。
まとめ
羅臼岳でのヒグマ襲撃事故とその後の駆除は、知床という豊かな自然とヒグマの生態系、そして人間の活動領域が交錯する場所で発生しました。改正鳥獣保護管理法の施行を控える中、クマによる人身被害と駆除の是非を巡る社会的な議論はさらに深まることが予想されます。斜里町役場は住民の安全を守るため、適切かつ迅速な対応を継続していくことが求められています。人間と野生動物が共存するための最適な道を探る努力は、今後も続いていくでしょう。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 羅臼岳ヒグマ駆除「子グマ殺す必要あるのか」「人間の身勝手」と批判殺到…役場担当者が明かす「約7割が苦情」その内容(SmartFLASH)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b901607c463969cf7eca1204c0b64ddf7caefac6