中国発「妊娠ロボット」が開発終盤:少子化と人工子宮技術の未来、専門家は警鐘

中国のロボット工学起業家が「妊娠ロボット」の開発をほぼ終え、早ければ来年にも試作機の市販を目指すと発表しました。この革新的なプロジェクトは、結婚をせずに「妻」や「子ども」を望むという新たなニーズに応えるべく、妊娠機能を備えた「ロボット妻」の創出を掲げています。急速に進む中国のロボット技術が、現代社会の抱える少子高齢化問題に一石を投じる可能性を秘める一方で、その技術的実現性や倫理的側面については、専門家から深刻な懸念の声が上がっています。

進化する中国のロボット工学と社会背景

中国は、ロボティクス分野への巨額な投資を継続しており、国民一人あたりの産業用ロボット保有数で世界有数の水準に達しています。2025年8月初旬には、北京で第1回「世界ヒューマノイドロボット競技会」が開催されるなど、人型ロボットを含む先端技術開発に国家を挙げて取り組む姿勢が鮮明です。このような背景には、少子高齢化による労働力不足という喫緊の社会問題があります。経済的な不安や価値観の変化から出産を遅らせる女性が増加し、中国の出生率は深刻な低下に見舞われています。さらに医学誌『ランセット』によると、不妊率は2007年の12%から2020年には18%へ上昇しており、妊娠可能年齢のカップルの約5.6組に1組が妊娠に困難を抱えている現状があります。

中国北京のロボットレストランで客に応対するロボットウェイトレス。これは人型ロボット技術の多様な応用例の一つ。中国北京のロボットレストランで客に応対するロボットウェイトレス。これは人型ロボット技術の多様な応用例の一つ。

「人工子宮」技術の具体像と倫理的議論

広州を拠点とするカイワ・テクノロジー(開蛙科技)の創業者、張啓峰(チャン・チーフォン)氏は、中国で違法とされる代理出産をロボット技術で回避しようと試みています。シンガポールの南洋理工大学で博士号を取得したチャン氏によれば、ヒューマノイドロボットに妊娠チャンバー(人工子宮)を組み込み、妊娠期間を含めて「自然な妊娠」を再現することを目指しているとのことです。人工子宮の技術は「成熟段階にある」とされ、約10カ月にわたり胎児を育てる構造で、栄養はへその緒につながるチューブを通じて供給される構想です。この発想は、2017年にフィラデルフィア小児病院の研究チームが発表した、未熟な子羊を人工羊膜「バイオバッグ」内で数週間生存させた研究を想起させます。

専門家の懸念と健康・倫理的リスク

チャン氏のインタビューは中国のSNS「微博(ウェイボー)」でトレンド入りし、技術的な可能性への期待と共に、まだ検証されていないアプローチへの疑問や、想定される販売価格10万元(約14,000ドル、北京の平均年収の約半分)への批判も見られます。特に、専門家からは深刻な懸念が表明されています。ウィスコンシン大学マディソン校の産科医イー・フーシェン氏は、妊娠が「極めて複雑で繊細なプロセス」であり、各段階が非常に重要であると指摘。このロボットは「恐らく単なる話題作りにすぎない」とし、「仮に出産まで至ったとしても、健康面や倫理面で多くのリスクがある」と警鐘を鳴らしています。また、羊の人工妊娠成功が寿命の長い人間にそのまま適用できる保証はなく、年齢による異なる健康リスクやメンタルヘルスの問題も無視できないと述べました。チャン氏は現在、広東省当局と商品化に向けた協議を続けていますが、現時点で認可が下りるかは不明な状況です。

まとめ

中国における「妊娠ロボット」の開発は、少子化という社会課題への対応策として、またロボット工学の新たな地平を切り開く試みとして注目されています。しかし、その実現には、技術的な障壁だけでなく、医療倫理、社会の受容性、法規制といった多岐にわたる複雑な課題が存在します。この大胆な構想が、果たして未来の生殖医療や家族のあり方にどのような影響をもたらすのか、今後の動向が注視されます。


出典

Yahoo!ニュース (Newsweek Japan 掲載記事より)
https://news.yahoo.co.jp/articles/7ea8ecd7f0bf5e2321add29fcb9c7052dd59e746