日本各地で新米の収穫期を迎え、市場には期待が高まる一方で、その価格高騰が消費者の家計に重くのしかかっています。特に今年は新米の価格が大幅に上昇しており、その背景には農業を取り巻く経済状況の変化があります。こうした状況を受け、農林水産省は、新米の値上がりショックを和らげるため、随意契約による備蓄米の販売期限延長を決定しました。しかし、この政府の対応策が市場の混乱をどこまで吸収できるのか、現場からは疑問の声も上がっています。
新米価格高騰の背景にある「概算金」の上昇
都内のある米穀店では、先週届いたばかりの新米について、「価格の上がり方が急すぎて、売る方も買う方も対応に困っている」と山菊米穀店の雨間瑞秀さんは困惑を隠しません。例えば、佐賀県産コシヒカリの価格は昨年と比較して1.3倍に跳ね上がり、5キロ換算で1200円もの値上がりを記録しています。この大幅な価格上昇の主な要因は、「概算金」の引き上げにあります。
「概算金」とは、農協がコメ農家に対して出荷前に支払う一種の前払い金です。この概算金が上昇すれば、生産者はその価格を下回って販売することを避けるため、必然的に市場価格も引き上げられます。実際、今週決定されたばかりの新潟産「一般コシヒカリ」の概算金は昨年より1万3000円高い3万円に、山形産「つや姫」も1万1500円高い3万1000円にそれぞれ上昇しています。これらのデータは、新米の価格高騰が単なる一時的な現象ではなく、構造的な要因に基づいていることを示唆しています。
新米価格高騰に悩む山菊米穀店の雨間瑞秀さん
農水省の対応策:備蓄米販売期限の延長
新米価格高騰の流れを受け、政府、特に農林水産省も対策を急いでいます。小泉進次郎農水大臣は、「元々8月までのものだから、『随意契約の備蓄米の販売はやめます』と言ったら、まさにそれこそが、さらなる高騰のトリガーを引いてしまう」と述べ、市場のさらなる混乱を避けるため、随意契約の備蓄米の販売期限を延長する判断を下しました。当初、販売期限は8月末までとされていましたが、備蓄米の倉庫からの出庫作業や精米に時間を要することから、現場からは期限延長を求める声が上がっていました。
新米価格を左右する概算金の推移と高騰
現場の声:備蓄米の不人気と期限延長の限界
しかし、前述の山菊米穀店からは、この期限延長に対する懐疑的な意見が聞かれます。「もう確実に売れないでしょう」と雨間さんは語ります。最近、備蓄米はあまり人気がなく、現時点でも5キロ換算で100袋以上が店舗に残っている状態です。
今回の期限延長における新たなルールは、「引き渡し後1か月以内」に売り切るというものです。この米穀店に備蓄米が到着したのは8月1日だったため、期限はわずか1日延びた9月1日となります。雨間さんは、「1日しか変わらないので、入荷日から1か月では難しい」と、実質的な効果の薄さを指摘します。さらに、「安いとはいえ古いお米を食べるより、新米を手に取る方の方が多い。もう一度政府が買い戻してくれたらいいのに」と、売れ残った備蓄米の値下げ販売を余儀なくされる現状に肩を落としました。
備蓄米販売期限延長について語る小泉進次郎農水大臣
売れ残り、期限延長後も消費に苦戦する備蓄米
結論
農林水産省による備蓄米の販売期限延長は、新米価格高騰による消費者への影響を緩和しようとする政府の試みです。しかし、市場の現場からは、備蓄米自体の需要の低さや、実質的な販売期間の延長が限定的であることから、その効果に対する疑問の声が上がっています。新米の値上がりショックがどこまで緩和されるのか、その不透明感は払拭されていません。今後の政府の動向と市場の反応が注視されます。
高騰する新米と備蓄米の選択に戸惑う消費者
参考文献
- TBS NEWS DIG Powered by JNN. (2023年8月29日). 「新米の値上がりショック」を吸収できるか?農水省が「備蓄米」の販売期限を延長【news dig】. Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/articles/207285d9f21796b7001f58177831e97a50f6865e