静岡県伊東市の田久保真紀市長(55)を巡る学歴詐称疑惑が波紋を広げている。この問題に対し、東洋大学の同窓生であり、大学ジャーナリストとして活躍する石渡嶺司氏(50)が「これ以上、母校の名前を汚さないでほしい」と苦言を呈した。田久保市長が東洋大学法学部の卒業事実がないとされる中、「卒業証書がある」と弁明する市長の発言には、多くの矛盾点があると石渡氏は指摘する。本稿では、石渡氏の見解を基に、この学歴問題の深層に迫る。
東洋大学の「除籍」と「卒業証書」に関する石渡氏の指摘
石渡氏は、田久保市長が自ら認めている通り、東洋大学を除籍になっている点を強調する。大学の規定上、除籍となった学生に対し、大学が卒業証書を授与することは「ありえない」と断言。にもかかわらず、田久保市長が「卒業資格を取り消された可能性がある」という趣旨の発言をしていることは、大学側のコメントと明確に矛盾すると指摘する。東洋大学は「卒業後に除籍になることはない」と説明しており、この両者の主張の隔たりは大きい。
石渡氏は、もし大学側の不手際で除籍となったのであれば、田久保市長は大学に抗議すべきであり、「卒業した」という同級生や知人の証言を集めるなどの方法はいくらでもあると述べる。さらに、「本当に卒業証書を持っているのなら、議会で堂々と公開すれば済む話。それをしないから疑惑が深まるんです」と、市長の対応への疑問を呈した。
石渡氏自身の東洋大での経験と卒業証書の受領経緯
石渡氏と田久保市長は共に1990年代に東洋大学に入学している。石渡氏は自身の経験を通じて、東洋大学の卒業に関する実情を説明する。
「私が東洋大学(社会学部)を卒業したのは1999年です。卒業論文の作成には苦労しました。『A評価は絶対に出さない』と豪語する都市社会学が専門の教授の厳しいゼミで、競馬や競輪などギャンブルが地域社会に与える影響について四苦八苦して論文を書き、なんとかB評価をもらい卒業できました。」
石渡氏は、卒業式を欠席したにもかかわらず、卒業証書は大学から郵送されてきたと語る。保管期間が過ぎたため、当時住んでいたアパートまで送付されたという。この経験から、たとえ卒業式を欠席しても、正規に卒業していれば卒業証書は必ず授与されることを強調した。
石渡嶺司氏が東洋大学から授与された本物の卒業証書。伊東市・田久保市長の学歴問題で焦点となる、正規の卒業証明を示す一枚。
一般的に卒業証書は再発行されないことが多いが、企業が就職試験などで提出を求める卒業証明書は、はるかに簡単に取得できることも石渡氏は指摘する。
「田久保氏や私が在籍した’90年代は、大学の窓口に行けば30分ほどで発行してくれました。現在ではコンビニでの請求と発行も可能。たとえ田久保氏に卒業証書を見せられない明確な理由があるとしても、窓口に行って卒業証明書を出してもらうことは可能なんです。」
この証言は、田久保市長がなぜ簡単な手続きで取得できる卒業証明書さえ提示しないのか、という疑問を一層深めるものとなっている。
田久保市長が「除籍」となった可能性のある要因
田久保市長の除籍には、いくつかの要因が考えられると石渡氏は分析する。犯罪行為による懲戒や入学時の虚偽申請、学費未納などが一般的だが、これらの可能性は低いと見ている。犯罪行為や書類の偽造があればすでに報道されているはずであり、学費についても本人が払っていたと主張しているためだ。
最も可能性が高いと石渡氏が指摘するのは、「長期の無断欠席による修学放棄」である。田久保市長自身も会見で「不真面目な学生でいつまでも(大学に)通っていたというような通学状況ではなかった」と話していることを引用し、2年、3年と履修登録をせず、大学から修学放棄と判断されたのかもしれないと推測した。
学歴問題が深まる中で田久保市長の苦境と今後の展開
学歴問題がこじれる中で、田久保市長は苦しい状況に追い込まれていると石渡氏は語る。市長が「伊東市の議長と副議長に卒業証書を見せた(田久保氏によると19.2秒間)」と断言してしまったため、後に引けなくなっているのではないかという見方だ。
問題が発覚した早い段階で「間違っていました」と非を認め辞職し、再出馬していれば、市民が「潔い」という印象を受け、再選していた可能性もあったと石渡氏は分析する。しかし、田久保市長は卒業証書の提出を拒み、曖昧な説明を繰り返すばかりで、疑惑は深まる一方だ。
「ここまで問題がこじれると、支持者であってもソッポを向いてしまいます。『卒業している。でも除籍になった。卒業証書はあるが公開はできない』という、苦しい主張に固執するしかない状況に追い込まれているのでしょう。」と石渡氏は述べ、市長の現状の困難さを指摘した。
同窓のジャーナリストからも矛盾点を指摘され、学歴詐称問題は「有印偽造私文書等行使の疑い」で刑事告訴されるまでに発展している。伊東市民の信頼回復のためにも、田久保市長にはより明確で説得力のある説明が求められている。
参考文献: