トランプ政権下の関税政策:米国が直面する物価上昇の現実

米国で長らく誤解されていた「関税の負担者」に関する認識が、今ようやく変化の兆しを見せているようです。米国の経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)電子版が14日に掲載した社説の見出し、「関税は誰が払うものなのか、我々はようやく知った」は、その驚きを率直に示しています。同記事を紹介するX(旧ツイッター)の投稿もまた、「トランプは有権者に対し、彼の関税は外国が支払うと約束している。しかし、生産者物価指数のデータは、経済が別の動きを示しているようだ」と指摘し、関税が米国経済、特に物価に与える影響に焦点が当たっています。

米国旗を背景に表示されたFNNプライムオンラインのニュースグラフィック。関税の国民負担に関する米国の認識変化を示唆する米国旗を背景に表示されたFNNプライムオンラインのニュースグラフィック。関税の国民負担に関する米国の認識変化を示唆する

これはWSJ紙が関税の基本を知らなかったということではなく、トランプ政権が「関税は輸出国が負担する」と国民に強く主張してきた結果、広く誤った認識が広まった現状への言及と考えられます。しかし、実際に米国国内の物価に悪影響が出始めるにつれて、関税の真の負担者が米国の消費者や企業であるという現実が認識され始めているのです。ちなみに、日本では朝日小学生新聞の例にもあるように、輸入関税は輸入者が支払い、それが商品価格に上乗せされるため、最終的には消費者が負担するという知識は、一般的な理解として浸透しています。

トランプ氏の「関税は外国が負担する」という主張の検証

トランプ前米国大統領は、長年にわたり関税は輸出国が支払うものだと国民に訴え続けてきました。政権第1期の2019年5月には「中国が米国に関税を払っているのであって、我々の消費者ではない」と明確に発言。さらに、2期目の大統領選運動中も「関税は外国が払っている。我々が払っているのではない。彼らが払っているのだ」と繰り返し主張しました。2度目の就任演説でも、「我々は国民に課税して他国を豊かにすることをやめる。その代わりに、外国からの輸入や外国そのものに課税して、我々の国民を豊かにする」と述べ、自身の関税政策が米国国民を豊かにすると強調していました。

トランプ大統領が関税のメカニズムを理解していなかったとは考えにくいでしょう。むしろ、「トランプ政権は国民を豊かにする」という力強いメッセージを効果的に伝えるため、関税の意味を意図的に歪曲し、その政策を正当化する手段として利用したものと推測されます。このような主張は、有権者に関税の直接的な影響が見えにくい中で、自国の利益を守るための強硬な貿易政策として受け入れられやすかった側面があります。

貿易政策と米国物価への影響

しかし、生産者物価指数(PPI)のデータが示すように、関税が課されることで輸入コストが増加し、それが最終的に米国企業の生産コストや国内の商品価格に転嫁され、物価上昇を引き起こすという経済の現実に、米国は直面しています。この構造は、関税が輸出国ではなく輸入国側の経済活動に負担をかけるという経済学の基本原則に沿うものです。今回のWSJの社説は、こうした経済的現実が国民の間に浸透しつつあることを示しており、今後の米国貿易政策に対する認識の変化に注目が集まります。

米国における関税の負担に関する認識の変化は、過去の政治的メッセージと経済的現実との間の乖離を浮き彫りにしています。関税が国内物価に与える影響が顕在化するにつれて、誰がそのコストを支払っているのかという根本的な問いが、再び注目を集めることとなりました。このような認識の「目覚め」は、今後の米国の貿易政策議論や、来るべき選挙における有権者の判断に、少なからず影響を与えることとなるでしょう。

参考文献