三菱UFJ銀行の元行員、山崎由香理被告(46)が顧客の貸金庫から金品を盗んだとされる事件で、東京地裁での被告人質問において、その被害規模に関する衝撃的な供述がありました。当初の起訴内容をはるかに上回る約100人から総額17億~18億円相当を盗んだと告白し、その動機が外国為替証拠金取引(FX)や競馬による巨額の損失補填であったことを認めました。この告白は、金融機関への信頼を揺るがすとともに、個人の金銭的依存がもたらす深刻な結果を浮き彫りにしています。
東京地裁と東京高裁の庁舎。三菱UFJ銀行元行員による貸金庫窃盗事件の公判が行われた場所。
衝撃の供述:約100人から17億円超を窃盗
東京地裁(小野裕信裁判官)で開かれた被告人質問で、山崎被告は自らが関与した窃盗の全貌について詳細に語りました。顧客の金品を盗んだ被害総額について、「約100人から総額17億~18億円相当」に上ると述べ、顧客の氏名と被害金額を表計算ソフトのエクセルで管理していたことを明らかにしました。当時の自身の心理状況については、「完全にまひしていた」と振り返り、金銭感覚が著しく失われていた様子を伺わせました。
FXとギャンブル依存:損失補填の連鎖
検察側は、事件の動機がFXで生じた損失を補填するためであったと指摘。山崎被告も「FXや競馬で(お金を)増やす以外にないと思っていました」と認めました。被告の説明によると、事件発覚後に離婚した元夫がFXで利益を上げているのを見たことがきっかけで、自身もFXを始めたといいます。平日はFX、土日はネット競馬に没頭し、2013年には多額の借金を抱えるに至りました。その後、ギャンブルをしないとの誓約書を元夫と交わし、「小遣い制」で給与を管理される生活となりましたが、月3万~15万円の小遣いでは洋服代や飲食代が足りなくなり、2017~2018年ごろにFXを再開。損失がさらに膨らみ、元夫のタンス預金で穴埋めを試みたものの、2020年以降は遂に顧客の金品に手を付けるようになったと供述しました。
「返済のため」の記録と、金融業界への謝罪
山崎被告は、エクセルに記録を残していた理由について、損失回復後に顧客に返金するためだったと説明しました。しかし、返済の見込みについて裁判官から問われると、「ありません」と答えるに留まりました。最後に山崎被告は、「私のような悪人一人のためにUFJを悪く見ないでください。金融業界への不信感を招き、本当に申し訳ありませんでした」と謝罪の言葉を述べました。
起訴内容と広がる被害の実態
起訴状によると、山崎被告は2023年3月から2024年10月にかけて、支店長代理や営業課長を務めていた練馬支店(東京都練馬区)と玉川支店(世田谷区)で、顧客6人から預かっていた金塊計約26キロ(時価総額約3億3000万円相当)や現金計約6145万円などを盗んだとされています。今回の被告人質問での供述は、検察側が立証可能な範囲で起訴したとされる内容を大きく超えるものであり、被害の深刻さと広がりを改めて示す形となりました。
結論
三菱UFJ銀行の元行員による貸金庫窃盗事件は、被告人からの新たな供述により、その被害規模が当初想定されていたよりもはるかに甚大であることが明らかになりました。約100人の顧客から総額17億~18億円相当の金品が盗まれたという告白は、FXやギャンブルによる個人的な損失が、最終的に多くの顧客と金融機関への信頼を損なう結果を招いたことを示しています。この事件は、金融機関における内部管理体制の重要性、そして個人の金銭的依存がもたらす悲劇的な結末について、社会全体に警鐘を鳴らすものです。