ジョンソン英首相率いる与党・保守党が総選挙で圧勝したのは、欧州連合(EU)離脱問題という一つの課題に有権者を集中させることができたからだ。
有権者は通常、ここ数年間の実績を総合的に判断して総選挙で投票する。保守党は2016年の国民投票以降、離脱問題に注力しすぎ、医療や福祉など国内の課題に十分に取り組めていない。このことで、普通の総選挙なら劣勢に立たされる可能性もあった。
しかし、ジョンソン氏は今回の総選挙をEU離脱の判断を有権者に委ねる「事実上の国民投票」に位置づける特異な状況を作り出し、有権者の目を、保守党政権が英国の国営医療制度「NHS」への公的支出を抑制してきたことなどからそらすことに成功した。
一方、最大野党・労働党による鉄道や水道の国有化といった社会主義的な政策は一部の有権者を怖がらせ、コービン党首は首相に向かない人物だと判断されたとみられる。
保守党の過半数獲得により、英国が来年1月末に離脱することが可能になった。EUは離脱後も英国と可能な限り緊密な関係を保ちたいと考えており、FTA交渉で最良の合意を得たいと考えているはずだ。
ただ、離脱後に現状の経済関係を2020年末まで継続する「移行期間」中に、EUと自由貿易協定(FTA)を締結することは時間的に不可能だ。保守党は今後、移行期間の延長を避けられないだろう。(聞き手 板東和正)