兵庫県の斎藤元彦知事が、昨年11月の兵庫県知事選挙において、選挙運動の対価としてPR会社に金銭を支払ったとされる公職選挙法違反(買収)容疑を巡り、神戸地検は8日、斎藤知事に対する任意聴取を行いました。この問題は、地方自治の透明性や選挙制度の公正性に深く関わるため、世間の大きな注目を集めています。多くの情報が飛び交う中で、本記事では、国会議員秘書や市議会議員の経験を持ち、公職選挙法の実務に詳しい三葛敦志弁護士の見解を基に、この事案の法的問題点を明確に整理します。
兵庫県知事 斎藤元彦氏とPR会社社長B氏、公職選挙法違反(買収)容疑で注目される両氏の姿
斎藤知事の公職選挙法違反容疑とは?支払いと「買収」の法的定義
まず、斎藤知事は、PR会社A社に対し71万5000円を支払った事実を認めています。公職選挙法第221条第1項第1号によれば、公職の選挙の候補者が選挙運動に対する報酬を支払った場合、「買収」に該当し、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処せられます。
さらに、仮に斎藤氏本人が直接関与していなかったとしても、「連座制」の適用により、本人の当選が無効となる可能性もあります(公職選挙法第251条の2、第251条の3参照)。このため、今回の事案の法的核心は、斎藤知事が支払った金員が「選挙運動に対する報酬」と見なされるかどうかにあります。この点が、公職選挙法違反の成立を左右する重要な鍵となります。
総務省の指針とA社の「主体的・裁量的」な関与の焦点
総務省のウェブサイトでは、A社のような「選挙運動用ウェブサイトや選挙運動用電子メールの企画立案を行う業者」への「報酬の支払い」について、具体的な指針が示されています。そこには、「一般論としては、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行う場合には、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払いは買収となるおそれが高いと考えられます」と明記されています。
三葛弁護士は、A社の社長であるB氏が過去に行った情報発信の内容から、「A社が『業者』として『主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行った』ことが強く推認される」と指摘します。この「主体的・裁量的」な関与の有無が、買収容疑の適用を判断する上で決定的な要素となるでしょう。
PR会社社長B氏の発信から見る「主体的・裁量的な選挙運動」
B氏のnote(現在は削除済み)には、「オフィスに現れたのは、斎藤元彦さん。それが全ての始まりでした」と記載されており、斎藤氏側からA社に相談を持ち掛けた経緯が推測されます。また、「ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました」と明記され、A社のオフィスで打ち合わせをする写真も掲載されていました。これは、A社が単なる請負業者ではなく、「業者」として業務を受注したことを強く示唆します。
B氏はさらに、「プロフィール撮影」「コピー・メインビジュアルの一新」「SNSアカウント立ち上げ」「ポスター・チラシ・選挙公報・政策スライド」「SNS運用」といった具体的な業務内容を詳細に説明しています。A社のスタッフとみられる人物も写っており、これらの活動が会社業務として組織的に行われたことが推認されます。
PR会社社長B氏が立ち上げを「責任を持って行った」と説明する斎藤元彦知事後援会のX(旧Twitter)公式アカウントのスクリーンショット
「主体的・裁量的」な関与については、B氏のnoteに「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、(中略)などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました」「そのような仕事を東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けた」と記載されています。これらの表現は、A社という組織体が、選挙戦略の立案から実行までを主導的に行い、自身の専門性と実績を積極的にアピールしていると評価せざるを得ません。
加えて、SNS上で拡散された一般の人が撮影した選挙活動の画像には、B氏が選挙カーに乗り、斎藤氏の間近でSNS掲載用の写真を撮影している様子が映っていました。これらの状況証拠から、三葛弁護士は、A社が斎藤氏の委託を受け、選挙に関する業務を主体的かつ裁量的に行ったことが「強く推認される」と結論付けています。
斎藤知事に対する任意聴取が行われたことで、今後は神戸地検による更なる捜査が進められ、法的判断が下されることになります。この結果は、斎藤知事の政治生命だけでなく、兵庫県政、ひいては日本の選挙制度に対する国民の信頼にも大きな影響を与えることになるでしょう。今後の展開が注視されます。