中国の「多極化世界」戦略と日本の国際秩序:SCO首脳会議の波紋

中国の習近平国家主席は、先日天津市で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議で演説を行い、その狙いと国際社会への影響が注目されています。東京大学の佐橋亮教授は、今回の会議が中国の提唱する「中国流の国際秩序」と「多極化世界」を世界に印象付ける重要な機会になったと分析しています。米国中心ではない新たな国際軸が形成されつつある現状は、国際社会全体に大きな影響を与えつつあります。

中国の国際秩序戦略を分析する東京大学の佐橋亮教授中国の国際秩序戦略を分析する東京大学の佐橋亮教授

習近平主席が描く「中国流の国際秩序」

習主席はSCO首脳会議を通じて、世界に向けて「中国流の国際秩序」を効果的にアピールしました。ロシアのプーチン大統領に加え、関係が緊迫していたインドのモディ首相までもが一堂に会したことは、中国外交にとって追い風となり、国際的な求心力の高まりを示唆しています。さらに、3日の抗日戦争勝利80年式典には北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が出席を予定しており、一連の流れは中国外交の勢いを象徴する出来事といえます。

トランプ政権が作り出した「米国の空白」と中国外交の攻勢

中国外交の勢いづく背景には、トランプ米政権の外交政策が深く関与しています。トランプ政権は同盟国との間でも二国間の厳しい交渉を重視し、多国間主義を軽視する傾向がありました。この「米国の空白」を中国は巧みな外交で利用し、「米国抜きの世界」という新たな国際像を提示しています。国際秩序に対するトランプ政権の無関心が、中国の主張に日増しに説得力を持たせている印象を与えます。習主席が演説で米国を念頭に置いた「いじめ行為に反対する」という発言は、以前ならば懐疑的に見ていた一部の民主主義国にも響き始めている現状があります。

変容するアジア太平洋地域の均衡と日本の危機感

現在、東南アジア諸国は米中間の均衡外交を維持していますが、その均衡点が徐々に中国寄りに傾きつつあります。自由と民主主義を掲げる日本にとって、「中国に傾く世界」という現実を深く理解し、国際社会における危機感を高めることが喫緊の課題です。

頼れない米国時代における日本の新たな外交戦略

もはや米国だけに頼ることができない現状において、日本は新たな外交戦略を構築する必要があります。英国などの民主主義国と連携を強化し、中国が積極的な攻勢をかけるグローバルサウス(新興・途上国)との外交関係を強化することが求められます。もし何もしなければ、現在の国際秩序はあっという間に崩壊する可能性を秘めていると佐橋教授は警鐘を鳴らしています。


参考文献: