「現代の奴隷制」と呼ばれる技能実習制度:長野・川上村レタス農家の現実

病死、餓死、自殺が相次ぐ入管施設、そして「現代の奴隷制」とまで評される技能実習制度――。日本社会が直面する外国人差別の深刻な実態に迫った書籍『外国人差別の現場』(安田浩一、安田菜津紀共著、朝日新書)から、その一部を抜粋し、農業分野における外国人労働者の実情と、それに伴う人権問題の根源を探る。この問題は、日本の食料供給を支える農業の持続可能性と密接に関わっている。

農業分野を支える外国人実習生の現状

縫製業に留まらず、日本の農業分野もまた、外国人実習生の労働力によって「生かされている」のが現状である。特に、長野県川上村のレタス農家は、「外国人実習生の労働力がなければ、もはや農家経営は立ち行かない」と口を揃える。川上村は、日本一のレタス出荷量を誇る「レタス王国」として全国に知られており、同時に国内でも有数の“国際化”が進んだ自治体だ。レタスの収穫が最盛期を迎える夏場には、村内人口のおよそ4人に1人が外国人実習生によって占められるほど、その存在は不可欠となっている。

長野県川上村、レタス産地を示す国道沿いの看板。外国人実習生の労働力に支えられる農業の現実を象徴。長野県川上村、レタス産地を示す国道沿いの看板。外国人実習生の労働力に支えられる農業の現実を象徴。

川上村レタス産業の発展と労働力確保の課題

戦前、川上村は養蚕や子馬の生産でわずかな現金収入を得る寒村に過ぎなかった。しかし、終戦直後、連合国軍の進駐により大きな転機が訪れる。米国人が好むレタスの生産が始まり、高原野菜に適した冷涼な気候と首都圏への近さが評価され、米軍は川上村をレタス栽培地として指定した。地元JA長野八ヶ岳川上支所の幹部が語るように、これが「村の飛躍を促した」のだ。レタスは村の主要産業として定着し、現在では出荷額が全国トップを誇る。

しかし、レタス産業の発展と並行して、労働力の確保は常に農家の大きな課題であり続けた。レタスの出荷は夏季限定の短期決戦であり、繁忙期には膨大な人手が必要となる。1990年代までは学生アルバイトが主力だったが、人手不足に悩む農家は競って給与を上げたため、日給は1万円を超えるまでに高騰。三度の食事も提供するなど「至れり尽くせり」の対応をしても、人件費が経費の半分以上を占める状況だったという。さらに、学生は重労働に嫌気が差すと、何の挨拶もなく姿を消すことも珍しくなく、農家の負担は増すばかりだった。

中国人実習生の導入と労働の実態

このような背景の中、川上村は2003年に初めて中国から技能実習生を受け入れを開始した。前出の農家は当時の驚きをこう語る。「実によく働くんでびっくりした。日本人の学生と違って、実習生はつらい作業でも音を上げない。しかも自炊を好む彼らには、賄い飯も必要ない。農家も余計な雑務から解放されたんです。とてもじゃないが、日本人の学生を雇うことなど考えられなくなった」。中国人実習生の勤勉さと低コストが、疲弊していたレタス農家の経営を劇的に改善させたのである。これにより、外国人実習生への依存は一層深まった。

明るみに出た人権侵害問題

しかし、その貴重な労働力である外国人実習生に対する人権侵害が、後に明るみに出ることとなる。2014年11月、日本弁護士連合会(日弁連)は、川上村の実習生を管理していた監理団体「川上村農林業振興事業協同組合」(現在は解散)に対し、人権救済と労働条件の改善を求める勧告を発出した。これは、実習生が劣悪な環境下で労働を強いられ、基本的な人権が侵害されていた実態を公に認めるものであり、日本の技能実習制度が抱える構造的な問題を浮き彫りにした。

結論

長野県川上村のレタス産業が外国人技能実習生によって支えられている現実と、その影に潜む人権侵害の問題は、日本社会における外国人労働者の位置づけと、技能実習制度のあり方について深く考察を促すものである。経済的効率性のみを追求するシステムが、いかに人権問題を容易に引き起こし得るかをこの事例は示している。今後、より公正で持続可能な労働環境の実現に向けた制度改革が急務である。

参考文献