自民党、参院選敗北総括も石破政権に深まる逆風:総裁選前倒しの動きと党内対立の行方

7月20日の参院選から約1カ月半が経過した9月2日、自民党はついに参院選の敗因を詳細に盛り込んだ総括文書を取りまとめました。この文書の公開は、与党の参院全体での過半数割れという歴史的大敗を受け、衆参両院で少数与党に追い込まれた石破政権にとって、新たな試練の始まりを告げるものです。党内からは総裁選の前倒しを求める声が強まり、現職の石破首相の政権運営は、かつてないほどの逆風にさらされています。

参院選敗北の「総括文書」が示す党の危機感

今回の総括文書では、参院選敗北の主要な原因として、現金給付案などの物価高対策が国民の十分な理解を得られなかったこと、そして「政治とカネ」の問題が長らく党への不信感の底流となっていたことが明確に指摘されました。文書は「解党的出直し」を強く訴える一方で、現職の石破茂首相(党総裁)の直接的な責任には言及しないという、玉虫色の表現に終始しました。これは、党内における責任の所在を巡る複雑な力学を反映していると考えられます。

自民党の会合で、参院選敗北の総括について議論する石破首相と党幹部ら自民党の会合で、参院選敗北の総括について議論する石破首相と党幹部ら

続投表明の石破首相と一斉辞意の党四役

総括文書が取りまとめられた同日、石破首相は両院議員総会で参院選の敗北について謝罪の意を表明しました。その上で、物価上昇を上回る賃金実現、米国との関税交渉、コメなどの農業政策といった喫緊の政策課題の解決に党として道筋を示すことが自身の責任であると強調し、続投への強い意欲を示しました。しかし、この総括決定を受け、石破政権の要である森山裕幹事長が退任の意向を表明し、自身の進退を石破首相に一任。さらに、小野寺五典政調会長、鈴木俊一総務会長、木原誠二選挙対策委員長も相次いで首相に辞意を伝えました。党役員の任期が9月末までであることから、森山氏らは当面続投するとみられていますが、党四役が一斉に辞意を示したことは、石破首相の苦境を一層深めるものとなり、党内における求心力の低下が浮き彫りになりました。

総裁選前倒しを巡る攻防:ルールと石破氏の戦略

今後の政局の最大の焦点は、自民党総裁選の前倒しが実現するか否かです。自民党の党則では、党所属国会議員295人と都道府県連代表47人の計342人のうち過半数の要求があれば、石破首相の党総裁任期満了前に総裁選を実施できると定められています。党総裁選挙管理委員会は、9月8日に前倒しに賛成する国会議員からの署名・押印書類を提出させ、その結果を氏名とともに公表する予定です。

このようなルール設定の背景には、石破首相や森山幹事長の意向が反映されていると見られています。仮に石破政権が続投する局面となれば、人事や選挙での公認を巡る報復措置を示唆し、総裁選前倒し要求への心理的なハードルを高める狙いがあるのは明らかです。一方、石破首相の続投を支持する議員からは、「総裁選前倒しを要求する議員と、石破首相の続投を容認する世論との間には乖離がある。いっそのこと国民に信を問うのも選択肢だ」として、衆院解散論を唱える動きも出ており、政局は複雑さを増しています。

旧安倍派への反発と深まる党内亀裂

石破首相自身も、対抗策を仕掛けています。8月24日には小泉純一郎元首相らと会食し、出席者を通じて「小泉元首相は2005年の『郵政解散』を引き合いに出し、解散に踏み切れば『裏金議員』に刺客を立てて戦うべきだと首相に忠告した」という情報が流布しました。石破首相に近い自民党議員は、「『政治とカネ』の問題で自民党を混乱させた旧安倍派の議員から退陣を求められ、首相は激怒している。彼らへの反発も、続投への強いエネルギーになっている」と内情を明かしています。

しかし、参院選敗北の責任を取り、石破首相の退陣を求める「石破おろし」の動きは勢いを増すばかりです。石破内閣の副大臣や政務官からも、総裁選前倒しへの賛成表明が相次いでいます。さらに、自民党の麻生太郎最高顧問は9月3日の麻生派研修会で、総裁選の前倒しを求める考えを公に表明しました。これにより、自民党は党の再生に向けて一枚岩になるどころか、現職の首相・党総裁を交代させるかどうかを巡り、党内における分断が一段と深まる様相を呈しています。

自民党は参院選敗北の総括文書を取りまとめたものの、「政治とカネ」の問題や物価高対策への不満といった根本的な課題は依然として解決されていません。石破首相の続投意向と、党四役の一斉辞意、そして総裁選前倒しを求める声が交錯する中、党内対立は深まるばかりです。国民の信頼回復と党の再生に向け、自民党がどのような道を歩むのか、その行方は日本の政治情勢に大きな影響を与えることとなるでしょう。

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