アフガニスタン地震で見殺しにされた女性たち:タリバン政権のイスラム法厳格適用が招く人道危機

2024年8月31日、アフガニスタン東部を襲ったマグニチュード6.5の地震は、甚大な人的被害をもたらしました。しかし、この自然災害の現場で、イスラム主義勢力タリバン暫定政権による厳格なイスラム法「マハラム」の適用が、被災した女性たちの命を救う妨げとなり、多くの死者を出したことが明らかになりました。男性のみの救助隊が異性の体に触れることを禁じられた結果、助けられたはずの女性たちが放置され、手当てを受けられずに命を落とすという悲劇的な状況が浮上しています。この問題は、タリバン政権の女性抑圧政策が、予期せぬ形で人道危機をさらに深刻化させている実態を浮き彫りにしています。

アフガニスタン東部地震の甚大な被害と女性被災者の現実

今回の地震で最も被害が大きかったのは、アフガニスタン東部のクナール州です。暫定政権が9月4日に発表した数字によると、クナール州での死者は2205人、負傷者は3640人に上り、その深刻さが伺えます。救助活動が本格化する中で、特に注目されているのが、女性の救助を巡る深刻な問題です。被災地では、家屋の倒壊によって瓦礫の下敷きになったり、重傷を負ったりした女性たちが、適切な救助や医療を受けられない状況に置かれました。

アフガニスタン東部クナール州で負傷したアフガン人男性を治療する医師。厳格なイスラム法が女性被災者の救助を困難にしている現状を示すアフガニスタン東部クナール州で負傷したアフガン人男性を治療する医師。厳格なイスラム法が女性被災者の救助を困難にしている現状を示す

イスラム法「マハラム」の厳格な適用が招いた悲劇

イスラム法では、「マハラム」と呼ばれる配偶者や血縁の近い親族以外の異性の体に触れることを厳しく禁じています。タリバン暫定政権は、この教えを社会全体に厳格に適用しており、今回の地震の救助現場でもその影響が顕著に現れました。読売新聞の取材に応じたヌルグル地区の住民モハンマド・イサさん(71歳)は、「救助隊は男性だけだった。マハラムが死亡した女性には誰も触れることができず、多くの負傷者が救出されないまま亡くなった」と悔しさを滲ませて証言しました。

アフガニスタンの被災地で救助活動が行われている様子。タリバン暫定政権の女性抑圧政策が人道危機を深刻化させているアフガニスタンの被災地で救助活動が行われている様子。タリバン暫定政権の女性抑圧政策が人道危機を深刻化させている

さらに、医療の現場でも同様の問題が発生しました。タリバン暫定政権が女性の救助を直接的に阻止したという情報はないものの、イスラム法の厳格な適用が徹底されているため、男性医師は女性の診察や手当てをすることができません。ヌルグル地区の別の集落に住むナザル・モハンマドさん(53歳)は、「治療を受けられず、重傷のまま死亡した女性もいる」と状況の深刻さを訴えています。これらの証言は、厳格な宗教的戒律が、緊急時に人命救助を妨げるという悲劇的な結果を招いた現実を示しています。

タリバン暫定政権の女性抑圧政策とその影響

一連の批判を受け、タリバン暫定政権は急遽、女性の医療従事者を集め、9月4日までに被災地に派遣を開始しました。また、国際援助団体の女性職員も現地に入り始めており、遅ればせながら女性被災者への支援体制が構築されつつあります。しかし、この問題の背景には、タリバン最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師が主導する広範な女性抑圧政策があります。

タリバンは女性の就業を制限し、遠出する際には必ずマハラムの同伴を義務付けています。さらに、昨年(2023年)末には女子医学校での教育を禁止しました。これにより、将来的に女性の医療の担い手が大幅に不足することが懸念されており、今回の地震で露呈したような問題が、今後さらに深刻化する可能性も指摘されています。女性が教育や職業の機会を奪われることで、社会全体、特に人道支援の分野で、その影響は避けられないものとなっています。

近隣国イランとの比較:緊急時における宗教的見解の相違

異性の体に触れることは、隣国イランでも宗教的な禁忌とされています。しかし、イランでは宗教権威である「大アヤトラ」や最高指導者が、緊急時にはその原則を緩和し、医療行為や救助活動における例外を認める見解を公表しています。これは、宗教的戒律と人道的配慮の間でバランスを取ろうとする姿勢を示していると言えるでしょう。

これに対し、タリバン暫定政権は、たとえ人道危機という非常事態であっても、イスラム法の厳格な適用を優先する姿勢を崩していません。このアプローチの相違が、アフガニスタンにおける女性被災者の運命を分ける一因となり、回避できたはずの多くの死を招いたと見られています。

結論

アフガニスタン東部を襲った地震は、タリバン暫定政権による厳格なイスラム法「マハラム」の適用と女性抑圧政策が、いかに人道的な危機を深刻化させるかを明確に示しました。女性被災者が男性救助隊による接触を禁じられ、医療を受ける機会を奪われた結果、助けられるべき命が失われたことは、深く憂慮すべき事態です。暫定政権が女性医療従事者の派遣を開始したことは一歩前進ですが、女性の教育や就業に対する長期的な制限は、アフガニスタンの未来における人道支援体制に影を落とし続けるでしょう。宗教的戒律と人道的ニーズの間のバランスをどのように取るか、この問いはアフガニスタンの人々に重くのしかかっています。

参考資料

  • 読売新聞オンライン: アフガン地震「女性、見殺しに」…異性接触禁止のイスラム法厳格適用で(2024年9月5日掲載)
  • Yahoo!ニュース: アフガン地震「女性、見殺しに」…異性接触禁止のイスラム法厳格適用で(読売新聞オンライン配信)
  • Reuters: アフガニスタン地震関連報道