石破政権に迫る総裁選前倒しの波:自民党内の攻防と政局の行方

昨年の衆院選、そして今年7月の参院選と立て続けに与党が過半数を割るという厳しい結果に直面している石破政権は、自民党内からの「石破おろし」の動きに対し防戦一方の様相を呈しています。首相であり自民党総裁でもある石破茂氏は、就任から1年を目前に控え、その去就が注目されています。今月2日には、これまで石破氏を支えてきた森山裕幹事長をはじめとする党四役が相次いで辞意を表明。そして、総裁選前倒し(臨時総裁選)の是非が問われる結論の日、8日が目前に迫っています。

石破首相、相次ぐ選挙敗北の責任を表明も具体策は明言せず

2日に行われた自民党両院議員総会の冒頭で、石破首相は昨年の衆院選と今年の参院選における大敗が続いたことについて、「選挙は最終的に、当然のことでありますが総裁たる私の責任であります。そのことから逃れることは決してできません」と自身の責任に言及し、陳謝しました。しかし、具体的な責任の取り方については「しかるべき時にきちんとした決断をする」と述べるにとどまり、明言を避けました。

一方で、同総会で参院選の総括が正式にまとまったことで、総裁選前倒しの是非を問う手続きが本格的に動き出しました。自民党規約に基づき、臨時総裁選を実施するためには、自民党所属国会議員295人と都道府県連の代表者47人の総数の過半数、つまり172人以上からの賛成を求める書面提出が必要です。その書面提出日は8日の午前10時から午後3時までとされており、当日中には都道府県連の意見も含めた結果が公表される見込みです。

臨時総裁選は、事実上の「総裁リコール」とも言える異例の事態であり、今年結党70年を迎える自民党にとっても、もし実施されれば史上初となります。この重大な局面を前に、総会に参加した議員の間でも意見は大きく割れていました。

総裁選前倒しを巡る党内の意見対立

棚橋泰文氏、総裁選前倒しに否定的

棚橋泰文・元国家公安委員長は、総裁選前倒しには否定的な見解を示しました。「表紙を替えて何とかするような姑息な真似はするべきではない」と述べ、むしろ国民が望むインフレ対策や、長らく非主流派であった石破首相だからこそ実現できる自民党の古い体質の改革をスピーディーに進めるべきだと主張。その上で、「総理は、すべての有権者が参加できる解散総選挙をなさるべきです」と、衆議院解散による国民の信を問うべきだとの考えを示しました。

小林鷹之氏、石破首相の責任の取り方に疑義

一方、小林鷹之・元経済安全保障相は、石破首相が自身の責任の取り方を明言しなかったことに疑義を呈しました。小林氏は、「石破総裁ご自身の過去のご発言、(当時の菅直人首相に投げかけた)『選挙結果をなめてはいけない』というご発言との整合性をどう取ればいいのか、自分の中で咀嚼(そしゃく)できておりません」と述べ、過去の自身の発言との一貫性を問う姿勢を見せました。そして、「総理総裁の責任の取り方について、(総裁選前倒しを求める)書面提出の時期までに何ら変更がない場合には、署名をさせていただきます」と、臨時総裁選への署名を検討する意向を明らかにしました。

昨年10月の総裁選に出馬した経験を持つ小林氏は、報道陣から仮に総裁選が実施された場合の自身の対応について問われると、「そもそも総裁選になるかどうかも決まっていないので」と言葉を濁し、足早にその場を後にしました。

高市早苗氏、今後の動向に注目集まる

同じく昨年の総裁選に出馬した高市早苗・前経済安全保障担当相は、石破首相の責任について「ご自身が考えること」と突き放したコメントをしました。多くの世論調査で次期首相候補として名前が挙がる高市氏に対し、記者が「初の女性首相を期待する声をどう受け止めますか?」と尋ねると、「今は何も申し上げることはございません。とにかく自民党、気合入れなきゃ」と述べ、表情をこわばらせました。

8月8日、自民党両院議員総会で演説する石破茂首相。総裁選前倒しを巡る議論の最中、厳しい表情を見せる石破政権のトップ。8月8日、自民党両院議員総会で演説する石破茂首相。総裁選前倒しを巡る議論の最中、厳しい表情を見せる石破政権のトップ。

前倒し賛成派の勢力拡大:麻生氏、遠藤氏らの動き

果たして総裁選前倒しは実現するのでしょうか。これまでも、裏金問題の震源地となった旧安倍派を中心に、総裁選前倒しを求める声は水面下で高まっていました。さらに今月3日には、自民党内の唯一の派閥である麻生派を率いる麻生太郎最高顧問が、派閥の研修会で「私自身は、前倒しを要求する書面に署名、提出すると決めている」と発言し、公然と賛成の意向を表明しました。この発言は、党内に大きな波紋を広げました。

加えて4日には、昨年の総裁選で石破氏を支援した遠藤利明元総務会長も、総裁選前倒しへの賛成を表明するなど、その動きは広がりを見せています。

時事通信社解説委員の山田惠資氏は、現在の状況について、「当初は5分5分の状況だったが、『前倒し』の方が勢いがあります」と分析しています。ただ、山田氏によると、元首相である麻生氏が前倒し賛成を明言している一方で、岸田文雄前首相は現時点ではどちらの立場にも傾いていないとの情報もあるといいます。また、これまで態度を保留していた参議院側も、前倒しに傾いているという見方を示しました。

まとめ

相次ぐ選挙敗北と主要党役員の辞意表明により、石破政権はかつてないほどの窮地に立たされています。自民党内では、総裁選前倒しを求める声が高まり、その是非を問う書面提出が8日に迫っています。これは自民党史上初の「総裁リコール」となる可能性を秘めており、党内の意見は棚橋泰文氏のような慎重派と、小林鷹之氏や麻生太郎氏、遠藤利明氏のような前倒し賛成派で二分されています。識者の間では「前倒しが優勢」との見方が強まる中、岸田文雄氏の動向や参議院側の意思決定が今後の政局を大きく左右するでしょう。8日の結果は、石破政権の命運だけでなく、今後の日本政治の方向性を決定づける重要な節目となることが予想されます。

参考文献