北朝鮮、トウモロコシ収穫期に異例の厳戒態勢:作物泥棒対策で自警団に高額報酬

トウモロコシの収穫期を迎えた北朝鮮の北部地域では、農作物の盗難や流出を防ぐため、例年以上に厳重な警備体制が敷かれていることが明らかになりました。食糧不足が深刻化する中、軍による検問所設置、警察の巡回に加え、農場が独自に高額な報酬を支払って自警団を組織するなど、体制維持と住民生活の狭間で緊張が高まっています。特に両江道では、畑からのトウモロコシ強奪事件が発生し、都市住民の農村への出入りが徹底的に統制されている模様です。

北朝鮮の平安北道朔州郡で、都市住民の作物泥棒や国境からの流出を防ぐために設置された見張り台。労農赤衛隊員とみられる人物が警備にあたっている。北朝鮮の平安北道朔州郡で、都市住民の作物泥棒や国境からの流出を防ぐために設置された見張り台。労農赤衛隊員とみられる人物が警備にあたっている。

自警団に高額報酬、一般労働者の数倍

北朝鮮の北部地域では、例年9月9日の建国記念日を過ぎるとトウモロコシの収穫が本格的に始まります。収穫直前のこの時期、各地の農場は農作物の盗難防止に全力を挙げており、特に今年は警戒が著しく強化されています。咸鏡北道の農場員A氏によると、彼の農場では「独自に約10人の自警団を組織し、除隊軍人などを選抜して月20万ウォン(約920円)を支給している」とのことです。この報酬は農場の独自予算から拠出されています。

現在の国営企業の一般労働者の月額賃金が3万5000ウォン(約161円)から5万ウォン(約230円)程度であることを鑑みると、自警団への報酬は通常労働者の4~5倍に相当し、農作物の警備がいかに喫緊の課題とされているかが浮き彫りになります。(※北朝鮮1000ウォン=4.6円で換算、8月末現在)このような農場による自警組織の結成は、金正恩政権が推進する農業政策の改編と関連していると見られます。数年前から農場に自律的な経営が求められるようになり、国家の関与が縮小し、農場の裁量権が拡大しました。これにより、畑や倉庫からの収穫物盗難による損失を被るよりも、自費で警備体制を構築する方が経済的に合理的と判断されているのでしょう。

北朝鮮の農場で、軍人がトウモロコシの収穫量を計量し記録している様子。農作物の厳重な管理体制を示す光景。北朝鮮の農場で、軍人がトウモロコシの収穫量を計量し記録している様子。農作物の厳重な管理体制を示す光景。

厳重な警備と絶えない脅威:都市住民の侵入

高額な報酬と引き換えに、自警団員には重い責任も伴います。前出の農場員A氏は、「もし担当区域で泥棒行為が発生すれば、報酬から7000ウォンずつ減給される。そのため、団員たちは夜間も交代で警備に当たっている」と証言しています。

自警団による警備に加え、主要道路には軍が検問所を設置し、安全局(警察)からは機動隊も出動するなど、徹底した警備網が敷かれています。しかし、A氏は「例年よりは泥棒の心配は少ないものの、都市部から山を越えて侵入してくるケースも後を絶たず、依然として安心はできない状況だ」と、現状の課題を指摘します。北朝鮮北部地域の農村では、深刻な食糧難を背景とした作物盗難と、それに対抗する国家及び農場の管理強化が続く、厳しい現実が浮き彫りになっています。

参考文献